Bリーガー伊藤良太が、気鋭の福祉ベンチャーの人事にキャリアチェンジした理由

宇藤 智子

プロスポーツは、社会を変える可能性を秘めている

──誰でも挑戦できる社会にしたいと思うようになる、きっかけのようなものがあったのでしょうか?

実は、僕が社会人になったタイミングでBリーグが発足して、「プロの道もあったのに就職を選択したことは間違ってなかったか」、「自分のキャリアや生き方はこれでいいのか」と2年くらい悶々としていたんですよ。小学校から依頼が来て講演に行ったときも、子どもたちを前にしたら、こんな自分の話でいいのかとモヤモヤして......。

でも、その帰りにたまたま目にしたネット記事が人生のキーポイントになったんです。それは都心部と地方の子どもの機会格差に関する記事だったんですけど、先天的な環境で挑戦する機会の少ない子どもがいると知って、「俺は何をやっているんだろう」と。

自分のことしか考えていなかったことに虚しさと情けなさを感じる一方で、使命感に駆られた瞬間でしたね。それで、自分の武器であるバスケットボールを活かして子どもたちにきっかけを与えられる生き方をしなければいけない、と本気で思いました。
『岩手ビッグブルズ』に在籍した3年間、チームのキャプテンを務め上げた

『岩手ビッグブルズ』に在籍した3年間、チームのキャプテンを務め上げた


──病気や障がいのある子どもを試合に招いたり、チャリティーイベントを開催したり、スポーツ選手が地域や社会のために活動することがあります。プロスポーツと福祉の関係について、伊藤さんはどう感じていますか?

僕が岩手ビッグブルズ時代にヘラルボニーとコラボユニフォームをつくったのも、皆さんにヘラルボニーの存在や目的を知ってほしいという想いがあったから。スポーツを通じたアプローチで社会に貢献したり機会を提供したりできるという意味で、プロスポーツは可能性に満ち溢れていると思います。

ただ、何かアクションを起こしたくても、たくさんのファンの期待を背負っている、人生をかけてスポーツに取り組んでいる、と思ったら目の前の競技に集中しないといけないという気持ちが勝ると思うんですよね。

海外のアスリートはシーズン中も当たり前のように活動を行っているので、不可能なことではないはずなんですけど......。

──たしかに日本には、競技以外の活動がネガティブに受け取られる傾向があるような気がします。

「試合だけに集中しろ」とか「スポーツ選手なら社会貢献するべき」とかいろいろ言ってくる人がいるけど、どうするかは選手自身が決めることで、強制されることではないと思っています。

──それもまた、“誰でも挑戦できる社会”のひとつですね。

だから、選択権は選手自身にあると示した上で、選手や社会に向けて、アスリートがアクションを起こすことのかっこよさや意義を理解してもらえるようなムーブメントを起こしたいと本気で思っています。

僕の今の立場だからこそできるアプローチで、1人でも2人でも巻き込んでいって、スポーツと福祉の関係を豊かにしていけたら嬉しいですね。
伊藤良太氏
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文=栗原羽衣子(パラサポWEB) 写真=ヘラルボニー

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