こうした事件に関する情報を全米規模でまとめた信頼に足るデータがないことから、米国内でこの問題がどれだけ深刻化しているのか、確実に把握することは難しい。
だが、新型コロナウイルスのパンデミックが発生して以降、個人宅を訪問する介護員や看護師、介護サービスに関わる多くの人たちが「暴行事件は増加した」と訴えている。そして、関連団体によれば、これはあらゆる 社会経済的集団においてみられる傾向だ。
病院などの施設で働く医療関係者には、近くに同僚や警備員がおり、助けを求めることができる。だが、ホームヘルパーたちは1人で個人宅を訪問する。これは、場合によっては恐ろしいことだ。
一部の訪問先には、いくつもの銃がある。住人が麻薬の売人ということもある。訪問するスタッフが途中で襲われて金品を奪われたり、玄関でショットガンを持った人に出迎えられたりすることもある。
以前はホスピスに常駐していたというある聖職者は、ホスピスケアを受けている末期の患者の自宅を訪問中、成人の息子がピストルを振り回したため「成人保護サービス(ASP)」に電話をかけたことがある。だが、このときASPは「その息子が実際に誰かを脅したり、発砲したりしない限り、できることは何もない」と対応したという。
労働力需給は「危機的」状態
現在のような状況になる以前から、介護を必要とする人の自宅を訪問する仕事は、米国で最も危険な仕事の1つだった。仕事中に負傷(背部損傷が大半)する可能性は、炭鉱労働者より高くなっている。一方で、時給は14.15ドル(約1900円、2021年の中央値)だ。医療従事者のうち、新型コロナウイルス感染症による死者は数千人、離職者は数百万人に上っている。パンデミックを受けて離職したホームヘルパーなど、患者と接する仕事をしていた人の多くは、復職していない。
その上、暴力事件が増え、銃の販売数が増加している。「フェンタニル(合成オピオイド)」をはじめとする薬物に対する需要はとどまるところを知らず、メンタルヘルスの危機もさらに深刻化している。