課題はライバルの存在だけではない。エア・インディアは国営の時期、定時運航率の低さや官僚的でお粗末な顧客サービスでイメージを落とした。政府によると、タタに買われる前には1日に260万ドル(約3億5000万円)の損失を出していた。
業界の構造的問題が収益の足かせに
アブラフィアは、長期戦になりそうな戦いにタタ・グループがどこまで本気で取り組むつもりなのか疑問だという。エア・インディアの買収は、タタ一族にとっては「家業」の1つを取り戻したかたちになる。エア・インディアは1932年にタタ一族が設立し、インド最大の航空会社に育てあげたあと、1953年に国有化された経緯があるからだ。だが、現在のタタにとって航空業はグループの中核事業ではなくなっている。現在の中核事業はおそらくITアウトソーシング(タタ・コンサルタンシー・サービシズはインド最大のテクノロジー企業だ)であり、次が衣類や製鉄、自動車といったところだろう。
インドでは1990年代に政府が航空業の民営化に乗り出すと、インドの経済成長に魅力を感じた投資家らの出資を得て新しい航空会社が続々と生まれた。実際、インドの航空旅客数は新型コロナウイルス禍までは堅調に伸びており、国際民間航空機関(ICAO)の統計によると2019年には1億6700万人と、2010年比で2.5倍に増えている。
しかし、インディゴを除けばインドの航空会社はほぼ一様に赤字であり、過去にはKingfisher Airlines(キングフィッシャー航空)やJet Airways(ジェット・エアウェイズ)のようによく知られた失敗例もある。業績の足を引っ張っているのは、高い燃料税や過剰な規制、非効率な空港・管制サービス、厳しい競争などだ。そこにはエア・インディアも一枚かんでいる。エア・インディアもインディアン航空と経営統合した2007年以来、赤字続きであるにもかかわらず、政府の支援のおかげで人為的に運賃を低く抑えられてきた。