「産産官学」や「戦略的地域選択」といった概念を大切にしながら、地域にイノベーションを起こそうとする若きストラテジストがいる。その奮闘に迫る。
新潟において地域発の事業を推進し、イノベーションのエコシステムを創出する。そのためのプラットフォームが、NINNO(ニーノ)だ。2020年11月、「NIIGATA ×INNOVATION」から着想を得た名称で新潟駅から直結のビル内に開所した。
「産産官学」の座組みで地域を元気に
NINNOは、スタートアップ・ベンチャー企業、地域企業、行政、 教育・研究機関など、あらゆるステークホルダーが共創し成果を上げる場として、開かれた玄関口の役割を果たすという。「全国から新潟へ……。新潟から全国へ……。NINNOは、どちらの流れに対してもオープンです。そうした考え方を端的に表すために、『産産官学』という造語を掲げています」
そう話すのが、この独自のコンセプトを発案したイードアの石川翔太だ。イードアは、スタートアップやベンチャーなど日本の未来を創造していくイノベーション企業に対し、コンサルティングサービスを展開する東京の会社である。新潟県および新潟市からの誘致を受けて、NINNO内に新潟支社を開設している。
NINNOのオープンと同時に石川は支社長として新潟に移住した。20年11月には、NINNOの所有者であり、新潟県を中心に都市開発を行っている木山産業の木山光と出会い、2社間での業務提携契約を締結。イノベーション拠点としてのNINNOの開発・活性化を担うことになったのだ。
「『産産官学』のひとつめの産は、地域に根づいた企業。ふたつめの産は、地域になかった企業。官は、地域課題を最も俯瞰的に把握している行政。学は、研究成果の産業化はもちろん、企業との共同研究や技術的なサポートなどによっても地域の共創を促進する教育・研究機関。地域が持続的にイノベーションを起こし、発展を遂げていくためには、『地域の力』と『地域外の新たな力』の融合が必要だと考えています。それを可能にする座組が『産産官学』なのです。地域内外の多様なプレイヤーが交流・共創することでイノベーションが地域に根づき、そこで得られた成果とともにさまざまなかたちで地域とかかわる企業が日本全国へ、世界へと巣立っていく。そのようにして地域の魅力が抽出されていくエコシステムの構築を目指しています」(石川)
実は、NINNOの設立自体が「産産官学」という概念を体現している。NINNOの開設時から入居している企業のひとつにIT企業のフラーがある。創業者の渋谷修太は、新潟県出身だ。その渋谷から木山産業の木山に対し、「新潟に本社を設置したい」という打診があった。渋谷の地元への想いをかたちにするために活躍の場を提供しようと設立されたのが、NINNOだったのだ。登記上の本店所在地を千葉から新潟へと移したフラーは、ふたつめの産からひとつめの産になった。いまでは、開かれた玄関口であるNINNOにおいて、数多くの産の成長を支援するという好循環が生まれている。
BSNアイネットやハードオフコーポレーションなど地元でイノベーションを牽引してきた企業も設立当初から入居し、これまでにNINNO内での共創が促進されてきた。
「戦略的地域選択」で企業を誘致
NINNOが「地域の内側と外側が組み合わさる場所」として、まさに本領を発揮する仕掛けがある。その名は「産産官学Fest」だ。「県内の自治体が地域課題を発表し、共創できる企業からのソリューション提案を募り、解決に向けてのマッチングを推進していくガバメントピッチが『産産官学Fest』です。第1回は、22年3月に開催しています。県内外の企業11社がNINNOに集まり、県内の自治体からは上越市、三条市、妙高市、南魚沼市、阿賀町、関川村の6市町村が参加しました。イノベーション企業による事業発表、自治体や地域企業からの課題発表、共創に向けたセッションという3部構成のプログラムで、当日は大変な白熱ぶりでした」(石川)
その地域ならではの課題は、多様な活動主体=産産官学によって認識・共有されることで新たな事業のチャンスになる。地域の課題や危機感を千載一遇のチャンスに変えていく仕組みが「産産官学Fest」である。多様な活動主体が連携することで、個々の主体ではできなかった新事業の創出や既存事業の高付加価値化に向けた取り組みが始まる。
「イノベーション企業に熱量があるのはもちろん、自治体の熱量の高さこそ、『産産官学Fest』が白熱した理由ではないかと思っています。本番に向けて準備を進める自治体からの『ピッチの壇上には誰が立つべきですか』という問いに対し、私は『その課題について、最も熱を込めて語ることのできる人』と答えていました。『人選については、役職の高さではなく熱量の高さを大切にしてください』とお伝えしたのです。結果として、首長自らが熱く語る自治体をはじめとして、すべての自治体のピッチに大変な熱が込もっていました」(石川)
いま、そうした活動主体のなかには、石川が新潟に誘致した企業も複数存在する。例えば、ドローンを利用した即時輸送サービスを事業の柱とするTOMPLAもそのひとつだ。「TOMPLAは、21年3月に新潟市で設立しました。ミッションとして掲げているのは『skydelivery for everybody』。商業ドローン配送のシステムを構築し、ドローンをデリバリービジネスに取り入れたい企業に向けてコンサルティングサービスを提供しています。設立から3カ月後の6月には、新潟市と連携してドローンを使った宅配サービス(米粉パスタと書籍)の実証実験に成功しました。人口集中地区(政令指定都市の駅前)でのデリバリーの成功は、TOMPLAの事例が全国でも初となっています。また、22年1月には某外資系コーヒーチェーンとの連携で実証実験を行い、同チェーンによる国内でのドローン初配送の事例をつくりました」(石川)
石川には「産産官学」の取り組みが促進・加速していくために不可欠な視点であると考え、大切にしている言葉がある。それは「戦略的地域選択」だという。
「『地域×事業』のかけ算を最大化するためには、『なぜ、その地域でやるのか』という問いに対する答えをはっきりさせないといけません。その地域の魅力が質・量ともに正しく抽出されるためには『戦略的な地域選択』を起点にする必要があります」(石川)
22年4月、NINNOは岸田首相からの訪問を受け、それを機に全国各地からの視察も増えた。
23年3月には、盛況だった1回目よりも規模を拡大して「産産官学Fest Vol.2」が開催される。これからの「NIIGATA ×INNOVATION」に注目したい。
https://ninno-plaka.com/
いしかわ・しょうた◎慶應義塾大学法学部卒業。2012年、イードアに入社。20年10月、イードア新潟支社がNINNO内に設立されるタイミングで新潟に移住、支社長に就任。11月には木山産業 社長特命執行 NINNO開発担当に任命される。ほかにも新潟県IT企業誘致アンバサダー、新潟県よろず支援拠点 コーディネーターとして活動中。