なぜ日本が今回のAIブームから恩恵を受けられるのか

また、台湾と比較すると日本のほうが地政学的に有利な条件が揃っているという点も活かせます。台湾の半導体メーカーTSMCが工場の新設地として熊本を選んだのも、おそらく中国リスクを考慮した上での判断でしょう。これから工場の稼働に向けて台湾から約300人のエンジニアが熊本に出向し、日本の技術者にも技術研修が行われる予定です。ソニーや東京エレクトロンの工場も実はすぐ近くにあるので、まるで九州の山々に新たな「シリコンバレー」が誕生したようです。

日本のスタートアップもこのAIの波に乗るチャンスがあります。半導体そのものだけでなく、AIプロダクトの開発に関わるその他の製造や自動化、高性能部品などの周辺分野でも新たな機会が期待できます。日本にはそれらの関連分野の技術者が揃っていて、さらに国内の提携先やインフラの面でも世界的に競争力の高いプレイヤーを多く輩出できるポテンシャルがあります。

一方で、ソフトウェアレイヤーで考えると「AIの導入によるプロダクト強化」というテック企業なら無視できないポテンシャルがあります。つまり、AIインフラの開発で活躍できる可能性は薄くても、アプリケーションレイヤーでは何千億円にも相当する市場機会が今後解放される可能性があるということです。特にSaaS型ソリューションならすでにデータの蓄積や、顧客のワークフローに組み込まれているという強みがあるため、AIの導入により飛躍的に機能を向上をさせることが可能でしょう。

分野で言えば会計や法務系ソフトウェアが恩恵を受けやすいでしょうが、それ以外のワークフローやカスタマーサービスでも様々な活用が考えられます。日本のプロダクト担当リーダーの皆様も、もしまだでしたらぜひ今の段階からAIツールを試したり、プロダクト強化に向けた活用方法などについて研究してみることをお勧めします。

また、AIの副次的な効果として、日本のスタートアップにとって海外進出の妨げとなっている「言葉の壁」が取り払われる可能性についても個人的に注目しています。実際、「DeepL」はすでにもはや恐ろしいほど自然に日本語を翻訳することができます。これまでは英語がビジネスの標準語である時点で、英語圏のスタートアップにとって最初から有利な状況でしたが、AIの進歩によりその差も今ほど顕著ではなくなるかもしれません。

Generative AIのポテンシャルには「ハイプ」とも言える過剰な期待も確かに高まっていますが、その多くは十分に裏付けのあるものだと考えています。AI革命はすぐそこまで来ていて、日本のスタートアップも様々な形でその恩恵を享受できる可能性があるのです。もしAI関連の事業の立ち上げを検討されているスタートアップの起業家がいらっしゃいましたら、ぜひCoralまでご連絡ください。

連載:VCのインサイト
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文=James Riney

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