ただ、北朝鮮は昨年12月15日、大出力の固体燃料エンジン燃焼実験を行ったが、固体燃料を搭載したICBMの発射実験は行っていない。韓国国防研究院で北朝鮮軍事を長年研究した金振武・韓国淑明女子大国際関係大学院教授は「試射に成功していないミサイルには、何の価値もない。北朝鮮はパレードでミサイルを見せたことで、逆に早い時期に発射実験を行い、その性能を証明する必要に迫られることになった」と語る。金正恩氏が、はやる気持ちで新型ICBMを公開したのも、「米国の脅威」を深刻に捉えていることの証左だろう。
また、昨年11月に発射実験に成功したICBM火星砲17が、映像で確認できるだけで11基登場した。これだけ数多くの戦略核兵器が登場したのは初めてだ。金正恩氏は「これだけ大量の核兵器を持っているんだぞ」と米国に見せたかったのだろう。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によれば、昨年1月時点で、北朝鮮は核弾頭を最大20発保有していると推計した。同時に45〜55個の弾頭をつくるのに十分な量の兵器用核物質を保有しているとした。金正恩氏は昨年末に開かれた朝鮮労働党中央委員会総会拡大会議で「現在の情勢は、国の核弾頭保有量を幾何級数的に増やすことを求めている」とも発言している。
ただ、金振武博士は「核ミサイルの増産は、確かに日米韓にとって脅威だが、金正恩氏にとっても両刃の剣になりかねない」と語る。北朝鮮はおそらく、ミサイルと核弾頭を別々に管理しているとみられる。朝鮮中央テレビが今年1月に公開した、金正恩氏と娘のキム・ジュエ氏が一緒に訪れたミサイル施設の写真には、弾頭が取り外されたミサイルがずらりと並んでいる場面が写っていた。ただ、数が増えれば増えるほど、金正恩氏が完璧にコントロールできるかどうかはわからない。北朝鮮は、PAL(Permissive Action Link=行動許可伝達システム。暗号なしでは核弾頭の安全装置を解除できない安全装置)のような、高度な核の安全管理システムを導入していないとみられている。
金振武博士が過去、脱北した北朝鮮軍の元将校から得た証言によれば、平壌近郊の北朝鮮・平安南道に駐屯する軍部隊は、金正恩氏の特別の許可がなければ、砲射撃訓練を許されていないという。この北朝鮮軍元将校は「金正恩は、誤って平壌が攻撃される事態があるかもしれないと、常に心配していた」と語った。正恩氏が軍部隊を訪問する際、部隊の銃器はすべて武器庫にしまわれ、厳重に管理される。現地部隊の兵士たちが拳銃を携帯する場合、弾はすべて抜いておくという。
金正恩氏が米軍の脅威におびえて核兵器を増産すればするほど、自身に降りかかる災厄への懸念もまた増えていく。どちらにしても、正恩氏が抱えるストレスは深刻になる一方だろう。
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