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2023.02.17

地上に太陽を生み出す 日本発・核融合ベンチャーの現在地

Getty Images

私事だが、昨年から登山を始めた。立春を迎え徐々に春に向かっているが、山の季節は遅く、低山でもまだまだ厳しい寒さだ。体を動かしているため日中は汗ばむくらいだが、陽が傾き始めると一気に気温が下がってくる。そんな時、谷間に差し込んだわずかな陽の光を浴びると体の表面がじんわりと温まってくる。太陽と地球の距離は約1.5億kmだというが、そんな途方もない距離の星まで熱を届ける太陽のエネルギーにあらためて驚かされる。

地上に太陽を生み出す

太陽と同じ原理でエネルギーを生み出し、発電を行うのが核融合発電だ。言葉自体は昔から聞いたことあるが、本当に実現できるのか、研究がどこまで進んでいるのかを把握している人は少ないのではないだろうか。

今回は日本で核融合発電の実現を目指しているHelical Fusionの共同代表である田口昂哉 に話を聞いた。同社は昨年5月にプレ・シードラウンドで7500万円を調達し、半年後の11月にはKDDIやNikonからも投資を受けた大注目の核融合スタートアップだ。

従来の化石燃料による発電は大量の二酸化炭素を排出し、地球温暖化の大きな原因の一つとなってきた。過去の戦争や衝突も石油が引き金になった例がいくつもある。エネルギー問題を解決することは世界平和にも繋がる。田口は「二酸化炭素を排出せず、資源の枯渇が心配ない核融合発電によって人間が地球上でずっと暮らしていけるようにしたい」と壮大なビジョンを語ってくれた。

Helical Fusion 共同創業者 田口昂哉

核融合発電では原子力発電の核分裂とは反対に原子核を融合させる。核分裂のような連鎖反応は起こらず、比較的安全な技術だと言われている。燃料には主に水素の同位体である重水素やリチウムを用いるが、両方とも海中に存在し、地球にほぼ無限に存在するので枯渇する心配がない。

また、原発のようにウランやプルトニウムといった高レベルの放射性廃棄物を出す燃料を使用しないため、発生する放射性廃棄物は何万年も土の深いところに埋めておく必要はなく、数十年ほど地中の浅いところや建物の中で保管していれば良い。

太陽が光と熱を発しているのは核融合反応によってエネルギーを放出しているためだが、地球上でそれを実現するのは至難の業だ。重水素とトリチウムを超高温高圧化で衝突させると、普通は融合しない2つが融合し、同じ質量の石油を燃やした時と比べて1500万倍ものエネルギーを生み出せるという。これを実現できれば人類にとって途方もない恩恵がある。そのためには水素を1億度に加熱し、激しく動き回っているところを10気圧もの高圧で閉じ込め、プラズマ状態にしないといけない。
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文=入澤 諒

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