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2023.02.17

地上に太陽を生み出す 日本発・核融合ベンチャーの現在地

Getty Images

核融合に関してわからないことがあれば、宮澤たち4人のエキスパートが何でも丁寧に教えてくれた。

「全く未知だった核融合の分野にとてつもない可能性があるということに気がついた。それに彼らの学者然としたパーソナリティーにも惹かれ、彼らの夢を現実のものにするために、もっとコミットしたいと思うようになった」と田口は振り返る。

宮澤たちからも「これからきちんと一緒にやっていかないか」と声をかけられた。

田口は、これまで経験してきたビジネスの中でも、数十年もの長いスパンで事業ロードマップを考えたことはなかった。核融合スタートアップに一歩を踏み出すには多少の迷いがあったが、「人類の進化に貢献できる」というワクワク感が勝った。

「2034年にこれで電気が点いたら、こんなに面白いことはないだろうな」

田口にはHelical Fusion以外にやりたいことが思いつかなかった。友人から相談をもらった半年後には共同創業を決め、準備期間を経てさらに半年後には4人が共同創業者となりHelical Fusionが始動した。

さらなる加速

Helical Fusionではプラズマを発生・維持させる部分の開発の目処が立ち、現在は炉をメンテナンスするためのクレーンや液体ブランケットに使う金属などの研究を進め、社会実装に向けてより具体的に動き出している。プラズマを安定化させるところで苦戦している世界の競合を尻目に、ロードマップに沿って着実に歩みを進めている。


とはいえ、課題はまだまだ山積している。商用炉を完成させるまでには5000億円ものコストがかかるうえ、本当に実現できるかどうかはわからない。核融合炉は30年前から「30年後には実現する」と言われ続けており、技術的な不確実性はまだ大きい。

また、核融合の中でトリチウムが発生するため、行政や地域住民との話し合いも必要となる。日本では核融合に関する法律や規制などがまだなく、昨年9月に政府が有識者会議を設置したばかりだ。

そんな中、Helical Fusionは昨年11月にアメリカに子会社を設立した。アメリカでは民間からも政府からも、核融合技術の開発にかなりお金が集まり、技術開発のさらなる加速が期待できるためだ。「人間が地球上でずっと暮らしていけるように」という目標に向けて、田口とHelical Fusionは2040年に向けて真っ直ぐに進んでいく。

文=入澤 諒

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