自分のやりたいことは、口に出すこと!がん転移の仕組み解明へ、世界的な発見

星野歩子 東京工業大学 生命理工学院生命理工学系 准教授

「出産後に1回も学会に出席したことがないという女性の研究者が案外多い。5年間1度も行かないと、実績的に活動していないと思われてしまう」と星野は指摘する。子育て中の研究者は、「学会に出て仕事をこなしたという対外的な評価を取るのか、子どもに無理を強いるのか」の板挟みになっている。しばらく新型コロナの影響で学会は対面開催がストップしていた。「正直、安堵していたんです」と星野は素直な気持ちを言葉にした。

米国では研究を続けるために、専属のナニーを雇い、育児を任せる研究者が多い。学会もナニーと子連れで参加できる。自由に研究に没頭できる環境をなげうって、女性研究者にとって高い壁のある日本に、なぜ星野は帰国したのだろうか? そう問いかけると、星野は「米国に残るかどうか、正直心が揺らぎました。ですが、初心を思い返し、決断したんです」と答える。星野の初心とはー。

「日本には優秀な研究者が多い。面白い研究や技術もある。それなのに、米国のほうがいい研究ができているといわれていることに釈然としなかった。その状況を変えるには、私が日本で世界的な研究を発表する研究室をもてばいい、と思ったんです」

星野には、ビジョンを実現できるという強い確信がある。取るべき行動も頭に描いていたー米国の研究室で学ぶこと。指導できる立場になること。そして、その成果を若手研究者である間に日本に持ち帰ること。その計画通り、東工大に着任後、37歳で自身の研究室を立ち上げる。

「5年後の自分をどうしたいかを考えて行動する」という星野。そして、「自分のやりたいことを口に出す」。誰かの頭の中に自分の行動や考えを残していくと、次につながっていくと、考えるからだ。「その行動の積み重ねで夢を実現できるのだと思います」。

星野ラボのメンバーは現在、16人。「臨床医もいれば、企業で社会人を経験した人、子育て中の女性、外国籍者もいる。国籍、文化、研究目標など、多様なバックグラウンドを持つ研究員が世界のどこも取り組んでいないユニークなテーマを研究する。そういう研究室をつくります」

ほしの・あゆこ◎2011年東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了。11〜19年Weill Cornell Medicine大学医学部小児科にてエクソソームと疾病のメカニズムを研究。19年4月東京大学IRCNに講師として帰国。2020年3月より現職。20年11月「輝く女性研究者賞」など多数受賞。

文=中沢弘子 写真=若原瑞昌

この記事は 「Forbes JAPAN No.101 2023年1月号(2022/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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