ストルテンベルグ事務総長の狙いの一つは、日本によるウクライナ支援の拡大だったのだろう。現在の日本は、緩和されたとはいえ、防衛装備移転3原則がある。支援したものは、防弾チョッキやヘルメットなどで、しかも「自衛隊の使った中古品」という扱いだ。自衛隊OBは「意地の悪い言い方をすれば、ゴミを渡しているわけで、相手にも失礼極まりない話だと思います」と語る。ただ、政府関係者によれば、政府は防衛産業の生き残りを図るため、今夏にも3原則の大幅な見直しを行う方針だ。ストルテンベルグ氏は、夏以降もウクライナで戦闘が続くことを念頭に、日本により一層の支援を行うよう働きかけたのだろう。
ストルテンベルグ氏は1月30日にソウルで行った講演で、韓国がウクライナに直接武器支援を行うよう訴えた。韓国は紛争中の国には武器支援を行わないとしているが、様々な理由から日本よりかなり踏み込んだ支援を行っている。米紙ウォールストリート・ジャーナルは昨年11月、韓国政府が米国に弾薬を売却したと報道している。韓国政府は殺傷兵器の提供を否定しているが、米国を経由する形でウクライナに事実上の軍事支援が行われているようだ。また、韓国はポーランドにK9自走砲やK2戦車を大量に売却する契約を結んでいる。こちらは、韓国の積極的な国防産業政策の一環だが、結果的にウクライナを支援するポーランドを側面から助ける格好になっている。
一方、岸田首相はストルテンベルグ氏との間で何を得たのだろうか。共同声明には「台湾海峡の平和と安定の重要性を強調」という表現が改めて盛り込まれた。NATO諸国はここ数年、英仏両国が空母を、ドイツもフリゲート艦をそれぞれインド・太平洋地域に派遣している。中国の安全保障分野での影響力増大を見越して、「インド・太平洋地域での発言力」を確保したい狙いがあるからだ。ただ、NATOも最近はロシアの脅威に対抗するのに忙しい。自衛隊幹部が昨年、NATOの統連合軍司令部を訪問したが、NATO側の関心はロシアに集中し、中国に関する議論は盛り上がらずに終わったという。日本がNATOに期待するのも、NATOによる台湾への武器支援は別として、「台湾有事の際にNATO軍が助太刀する」対処能力ではなく、「NATO諸国との関係悪化まで招いたらまずいから、台湾侵攻はやめておこう」と中国に思わせる抑止力に限られるだろう。