NATOはこの間、ロシアによる核の脅しや天然ガスの供給削減、あるいは関係諸国の「支援疲れ」など、様々な困難に遭いながら、ウクライナへの支援を続けている。戦闘機のウクライナへの提供を巡っては、フランスのマクロン大統領が「原則として排除されるものはない」と語る一方、米国のバイデン大統領は、可能性を否定している。各国ともに、水面下で戦闘機供与による戦況への影響や、ロシアの反応などについて水面下で激しい探り合いをしているようだ。マクロン氏やバイデン氏の発言は、ロシアの反応を見るための観測気球である可能性が高い。
一方、台湾有事の際、日本はNATOのように「台湾に武器支援を積極的に行う一方、中国との交戦は避ける」という振る舞いができるだろうか。年末に閣議決定した安保関連3文書は、反撃能力の保有を認めた。バイデン氏は大統領就任後、すでに4度も「台湾防衛の義務」に言及し、対ウクライナとは異なる姿勢をみせている。自衛隊は当初、台湾周辺で活動する米軍に対する補給支援や救難などの活動を行うだろう。ただ、米軍が攻撃を受ければ、日本は存立危機事態を宣言し、集団的自衛権を行使する。米軍を守るために中国軍に反撃能力を行使することになる。日本政府関係者の1人は「日米の一体化を進めることで、中国が台湾侵攻に踏み切れない状況をつくるべきだ」と語る。ただ、日米が一体化すればするほど、中国軍が米軍と交戦した場合、日本もほぼ自動的に戦闘に巻き込まれることになる。NATOのようには振る舞えない。
陸上自衛隊東北方面総監を務めた松村五郎元陸将は「日米一体化による抑止力が敗れた場合、戦場になるのは米国ではなく、日本です。少なくとも、そのような選択をしてよいか、岸田首相はもっと国民に語りかけるべきではないでしょうか」と語る。松村氏によれば、日本防衛に軸足を置いた防衛戦略を取るのか、日米一体化に軸足を置いた戦略を取るのか、政治が国民に決断を迫る必要があるという。「どちらの戦略を採るかによって、自衛隊の能力強化の内容や配置、日米共同訓練の内容に違いが出ます。国民に対して戦略を曖昧にしたままでは、国民意識と米側の認識の間に乖離が生まれ、ひいては日米同盟の弱体化を招きかねません」
最近、米国のオースティン国防長官が韓国とフィリピンを歴訪した。韓国は九州からフィリピンを通り、南シナ海を囲むように伸びる「第1列島線」の中に位置する米国の同盟国だ。フィリピンも第1列島線のすぐそばに位置する。米国は台湾有事の際、海空軍がいったん、中国軍の攻撃圏外に退避するとともに、第1列島線上に配備した海兵沿岸連隊を足掛かりに反攻作戦を展開する戦略を練っている。オースティン氏は、日本に加え、韓国やフィリピンにも「一緒に戦え」と念を押して回っているのだろう。
岸田首相は周辺に、3文書改定や防衛予算増額などを達成した高揚感を語っているというが、大事なことを忘れていないか。このまま、国民に覚悟を求めないまま、台湾有事が起きれば、岸田首相は「国民をだました」というそしりを受けるだろう。
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