発売中の『Forbes JAPAN』3月号に掲載する偉人の名言と、ヤンヤンによる名解説をお届けしよう。
子曰く、学びて時にこれを習う、亦た説ばしからずや
孔子(思想家、紀元前5-6世紀、中国)
ヤンヤン解説:「子曰く、学びて時にこれを習う、亦た説ばしからずや」。
数ある孔子の言葉のなかで、弟子たちはなぜこの言葉を『論語』の冒頭に据えたのか。それはこの文が、机上の学びが血肉化するプロセスに言及しているから。人は学んだだけでは不十分。世の荒波にもまれて、ハッと気づく瞬間がやってくる。「あのときの勉強は、これだったのか!」と。学びの価値を悟る“習”が、学びを完成させるのだ。
誦みなさい
ガブリエル(大天使、7世紀、アラビア半島など)ヤンヤン解説:世界三大宗教の一角であり、いまや信者数18億を抱えるイスラム教。その創始者ムハンマドは、平凡で裕福なビジネスマンだったが、壮年に差しかかり大天使ガブリエルから啓示を受ける。「誦みなさい!」(『コーラン』第96章)。
この言葉がすべ ての始まりとなった。歴史に莫大な影響を与えるのは、時として史実以上に、人が信じる物語である。
姿は似せがたく、意は似せやすし
本居宣長(国学者、18世紀、日本)ヤンヤン解説:今日の「言語化力」に通ずる洞察を残しているのは、日本の本居宣長だ。解読不能に陥っていた『古事記』を読み解いた言葉の賢人は言う。
「姿(言葉)は真似しがたく、意味は真似しやすい」。喜怒哀楽を表面的に感じ取るより、その真意を的確な姿形をもつ言葉に落とし込むほうが、実は難しいのだと看破した。
あなたが思っているほど簡単ではないのですよ
エカチェリーナ2世(ロシア女帝、18世紀、ロシア)ヤンヤン解説:ロシア女帝として君臨したエカチェリーナ2世。皇帝の無制限の権力について尋ねられた彼女は「あなたが思っているほど簡単ではない」(ロバート・K・マッシー著『エカチェリーナ大帝 ある女の肖像』)、そんなに甘い話ではないと一蹴。
関係者への根回し、経営判断に対する検証作業、それらがあって初めて人は従い、権力が権力らしく見えるだけ。権力の正体をさめた理性の目でとらえていた女帝は新時代のリーダーとなり、ロシア帝国の黄金時代を築いた。
心が開いている時だけ、この世は美しい
ゲーテ(詩人・劇作家・小説家、18-19世紀、ドイツ)ヤンヤン解説:君主にあらずとも、何もかもが敵に見えてくるときがある。心が塞いでいるから何も見ることができないのだ、とはゲーテの弁。現実はただそこにあるだけで、向き合うまなざしは僕たちに任されている。
ありのままを受け入れ、認めてみることで開かれる世界の美しさもある。地獄の日々もご機嫌でいきたい。
たのしみは 朝おきいでて昨日まで 無かりし花の咲ける見る時
橘 曙覧(歌人、19世紀、日本)ヤンヤン解説:最後は孤高の歌人・橘曙覧の代表作。これ以上ないほどの素朴さで細やかな日常への愛おしさを詠んだこの歌は、上皇上皇后両陛下がかつて訪米した際、歓迎式典でクリントン大統領(当時)が引用して 有名に。100年以上も前の一首だが、その伝える心は時代と文化を超える。
コテンラジオ◎世界史データベースを開発するCOTENが運営する歴史インターネットラジオ。同社代表取締役CEOの深井龍之介とメンバーの楊睿之、BOOK代表の樋口聖典がパーソナリティを務める。「Japan Podcast Awards2019」で大賞とSpotify賞を受賞。Apple Podcast1位獲得。
楊 睿之◎1986年、中国四川省生まれ。小学4年まで中国で暮らし、その後来日。九州大学文学部卒業後、中国での農業従事、日本での環境系コンサル会社を経て2017年に独立。資源循環産業で働く障がい者のウェルビーイングに関する調査・研究に携わる傍ら、18年よりCOTENに参画。