日本で頭痛に悩んでいる人は3000万人以上とも言われていますが、病的な激しい痛みでないかぎり、医者にかかることはなく、頭痛の正しい原因もわからず、市販薬で対処している人がほとんどです。しかし研究グループによれば、そうした日常的な頭痛による欠勤や仕事の効率低下などによる経済損失は、1人あたり年間176万円にもなるとしています。日本の頭痛専門医の数が1000人に満たないことも、そうした状況を招く一因です。そこで研究グループは、このAIシステムの開発に乗り出しました。
糸魚川総合病院、富永病院、埼玉精神神経センターからなる共同研究グループは、富永病院頭痛センターが所有している4000人分の匿名化された問診データと、頭痛専門医による5種類の診断名(片頭痛、緊張型頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛、その他の一次性頭痛、脳血管障害などの二次性頭痛)のうち2800人分をAIに学習させました。そのAIの精度を検証したところ、正しく診断名がわかった「正解率」が76パーセント、病気であることを正しく判断する「感度」が56パーセント、病気でないことを正しく病気でないと判断する「特異度」が92パーセントという成績が示されました。
さらに、頭痛が専門でない医師5人に、問診票による50人の診断をしてもらい、頭痛専門医の診断を正解とした場合の精度を測ったところ、AIなしの場合は46パーセントだったのに対して、AIを使用した場合は83パーセントに向上しました。とくに専門治療が必要な偏頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛の診断精度は100パーセントに達しました。
今後は、複数の医療機関や企業でこのAIシステムの有用性を検討していくとのことです。片頭痛は、CGRP関連製剤を含む治療薬で「大部分のコントロールが可能」と研究グループは話しています。そのためには、正しい診断を受ける必要があります。また、緊張型頭痛、三叉神経・自律神経性頭痛は片頭痛とは治療法が異なるため、診断を誤れば悪化させてしまう恐れもあるとのこと。このAIが使えるようになれば、かかりつけの非頭痛専門医でも、またオンライン診療やスマホアプリなどでも正しく頭痛の診断ができ、適切に対処できるようになるでしょう。一刻も早い実用化が望まれます。
また研究グループは、正しい治療を受けずに痛み止めを使いすぎると、頭痛をさらに悪化させてしまう恐れがあると警告しています。気になる場合は、時間や労力を惜しまず、受診しましょう。
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