混乱、衰退、困難な選択の10年
「グローバルリスク報告書2023年版」の調査対象となった専門家の80%以上が、今後数年間は、不安定化が続き、複数の衝撃により軌道の乖離が強調されると予測しています。悲観的ではありますが、納得できる予測です。短期的に深刻化するリスクは、経済的・地政学的な展望に構造的な変化をもたらし、今後10年で顕在化する他の地球規模の脅威を加速させることになるでしょう。こうした連鎖反応が最も顕著に起こるのが、長期的に深刻化するリスクの大半を占める環境分野の課題です。今受けている衝撃や、差し迫った懸念に意識を向けすぎていると、気候変動の緩和策と適応策が共に遅れ、非協調的なものになります。その結果、さらに極端な異常気象の発生や、生物多様性の喪失が加速し、より不安定で深刻な事態を招くことになります。海面上昇、異常気象、熱波、山火事などの気候変動の物理的影響により、直接的な損失や被害が同時発生し、そこに農作物の不作や基本資源へのアクセスの悪化、気候移住の開始、社会不安の増大など、間接的な影響が重なり、開発途上国を中心に世界中の多くの人々の生活が脅かされます。
しかし、今存在しているリスクや短期的なリスクから目を背け、気候変動のような長期的な脅威を優先するのも無理な選択です。何百万人もの人々が、食料不足や水不足、非自発的移住、自然災害のリスクにさらされ、数多くの家族が、生きるために気候を取るか食料を取るかの苦渋の選択を強いられています。そして、政府は、債務不履行を回避して財政的損失を出さずに今を乗り切るか、教育や保健医療やインフラに投資して未来を切り拓くか、その落としどころに苦慮しています。このような状況であれば、気候変動対策のための投資が進むことはあり得ません。
しかし、多くの家庭、組織、政府が、今このような選択を迫られています。経済大国が不況や債務困難に苦しむ中、国内や国家間に存在する不平等は拡大しつつあります。地政学的、経済的なリスクにより、ネットゼロの誓約とその実現に向けた取り組みが試され、科学的に必要なことと政治的に実行可能なことの間にある乖離が浮き彫りになっています。不平等が悪化するとともに気候変動の圧力が強まると、政治的な安定性が低下するリスクが高まり、複雑な未来に対応できる仕組みや制度の機能が損なわれてしまいます。また、闇雲に技術発展を進めてしまうと、雇用や生活、戦争や紛争、社会的結束やメンタルヘルスなどに関わる新たなリスクが生み出されます。世界規模のリスクには、すべて本質的に関連性があるため、「ポリクライシス」の頻度と深刻度が今後10年で増していく可能性が高まっています。「ポリクライシス」とは、連鎖的に生じた個々の影響が、予測不能な形でリスクをさらに増大させることです。
The top ten risks racing the world according to the Global Risks Report 2023