旧知でありながら全く新しいリスク
世界は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)と欧州で起きている戦争が引き起こした、グローバルヘルスと経済の課題を抱えたまま2023年を迎え、新しいながら不気味なほど見覚えのあるリスクに直面しています。世界経済フォーラムが発表した「グローバルリスク報告書2023年版(Global Risks Report 2023)」は、世界が今抱えているリスクの上位に「エネルギー」「食料」「インフレ」「生活費の危機」を挙げています。今後2年の見通しでは、「生活費の危機」が引き続き最大の脅威であり、「自然災害」「貿易および技術戦争」が続いています。一方、今後10年では、「気候変動対策(緩和策と適応策)の失敗」が最大のリスクになるとともに、「生物多様性の喪失と生態系の崩壊」が世界規模のリスクとして急速に悪化すると予測されています。また、「地経学上の対立」「社会的結束の侵食と二極化」「サイバー犯罪の拡大とサイバーセキュリティの低下」「大規模な非自発的移住」も上位10位にランクインしました。
グローバルリスク報告書で「所得格差」が最後に上位に位置したのは、世界金融危機の余波に見舞われた2013年でした。2012年には「エネルギー価格変動」と「食料危機」が上位10位にランクインしています。こうしてみると、社会、テクノロジー、経済、環境、地政学的リスクが複合的に絡み合っている現在の状況は、特殊だといえるでしょう。
一方で、現世代のビジネスリーダーたちや公共政策立案者にとって、史実としては理解できるもののほぼ未経験の「旧来の」リスクも再来しています。それは、冷戦を背景とした1970年代の低成長、高インフレ、不安定なエネルギー情勢、低投資の時代に似たリスクです。同時に、比較的新しいグローバルリスクも発生しています。それは、歴史的に高水準の公的・民間債務、記録的なペースで進む技術開発、気候変動の影響による圧力の高まり、そして、将来の見通しに対する不安感です。こうしたリスクや課題が渾然一体となり、2020年代が、先行き不透明で波乱が多い稀有な時代になろうとしているのです。