国内

2023.02.01

地元企業と海外見本市に行った岩手の高校生は、どこに就職するのか?

昨年11月にドイツ・デュッセルドルフで開催されたMEDICAのTOLIC展示ブースで

2018年、Forbes JAPANが革新的な中小企業を表彰する「スモール・ジャイアンツ」の記念すべき第1回大会でベストエンゲージメント賞を受賞したのが、岩手県盛岡市の「アイカムス・ラボ」である。

このとき、同社の片野圭二代表取締役を取材した。その後、僕はForbesCAREERでアイカムス・ラボを含む盛岡のベンチャー集団が形成されて行く過程を追ったノンフィクションの連載を行いながら、片野を中心にした盛岡の人たちの起業プロセスを見続けてきた。
 
片野ら盛岡のベンチャー集団の取り組みを追ってきたのには理由がある。起業が相次いだきっかけは、アルプス電気盛岡工場の閉鎖(2002年)だ。この際に、この工場でプリンターの企画・設計・生産に関わっていた技術者たちはユニークな選択をした。別の工場に転勤せずに退職し、盛岡に残ってベンチャー企業を起業した。そして、いつのまにかベンチャーが連携し、事業提携を行うようになっていったことが、僕の興味を掻き立てた。
 
優れた技術をもっていても資金調達、販路開拓、組織マネジメントなど、ベンチャー企業を持続させるのは非常に難しい。それでも彼らは20年間も経営を続けている。さらに医療機器に焦点を当て、結びつきをより明確に表明し、更なる発展を目指そうとしているのが、TOLIC(Tohoku Life science Instruments Cluster 東北ライフサイエンス機器クラスター)である。片野圭二はその代表であり、彼が代表取締役を務めるアイカムス・ラボ(電動ピペットpipettyという定番ヒット商品がある)は、TOLICの中心的企業に位置づけられている。
 
そして、ここが重要なことだが、アイカムス・ラボという企業名の「アイ(i)」は宮沢賢治の「イーハトーブ」(賢治の造語で心の中にある理想郷)に由来している。またTOLIC企業の多くが社を置く、「ヘルスティック・イノベーション・ハブ」という建物を運営しているのは、「イーハトーブ・スクエア」である。自分たちの働く場所、ひいては盛岡を、岩手を、東北を、理想的な生きる場所にしたいという理念は、アイカムス・ラボにとどまらず、TOLIC全体を貫いている。
 
しかし、岩手県のみならずほとんどの地方から人口流出は続いている。その最も大きな原因のひとつは、魅力的な働き口に乏しいということだろう。そして、雇用を生む最も効果的な施策は、大企業の施設を誘致することだ。しかし、TOLICは、大企業などに頼らず、みずから雇用を生み出したいという意思を表明している。
 
そして、TOLIC内のひとつひとつの企業の規模は小さいながらも集団となることによって、実際に大企業に勝るとも劣らない雇用を生み出そうとしている。雇用数だけで言えば、TOLICはすでに閉鎖したアルプス電気盛岡工場を上回るだけの雇用を創出している。これは画期的なことだ。

国際マーケットにローカル商品を持ち込む

今年1月6日に盛岡で開催されたTOLICのカンファレンスに顔を出した。今回の盛岡行きに際しては、TOLICに興味を持っている地元の高校生と話をすることが主な目的だった。


 今年1月6日のTOLICのカンファレンスで講演する筆者 

TOLICは例年ドイツのデュッセルドルフで開催される世界最大規模の医療機器見本市MEDICAにブースを設けて参加しているのだが、これに地元の高校生(高専生も)を連れて行くという企画を3年前におこなった。この構想はコロナによって2年間のブランクを余儀なくされてしまった(一昨年はリモートのみで開催)。
 
しかし、昨年は通常開催に戻り、面接によって選ばれた男子1名(上野裕太郎さん 一関工業高等専門学校5年)と女子2名(坂井瑞希さんと藤村一希さん ともに盛岡第一高等学校2年)が片野らTOLICのスタッフとともに現地に赴いた。
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文=榎本憲男

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