すると「そうですね」と長村さんは言った。そして「岩手に帰ることも考えるけど、やっぱりおそらくは東京で就職すると思います。20代はしゃにむに働いてみたいし」と続けた。
「じゃあ、30代になったら?」
「わからないけれど、岩手に帰るってことも考えないではないんです」
「岩手のどんなところが好き?」
「やっぱり人が温かい気がします」
「一緒にドイツに行った時、TOLICの人たちにもそういう暖かさって感じましたか」
「ええ。ドイツに連れてってくれて、一緒にブースに立って、夜は一緒にご飯を食べて……、やっぱり同じ岩手の人間なんだなと思いました」
TOLICのメンバーたちが集ったカンファレンス後の打ち上げ
また、今回ドイツに行った上野さんともオンラインで雑談する機会を持った。彼は将来は政治家になりたいという、いまどきの若者では珍しいタイプの学生である。「政治家になってなにがやりたいの」と尋ねると、「若者がもっと活躍できる社会にしたい」という真ん中を射抜くような答えが返ってくる。「起業したいと思う若者が起業しやすくなるような人的ネットワークづくりを構築したい」とも言っていた。
「一関高専を卒業するとどういう企業に就職する人が多いの」と僕は上野さんに尋ねた。
「大企業だと自動車製造業とか電力会社とかですかね」
「TOLICのアイカムス・ラボやセルスペクトのプロジェクトに技術者として加わっていますよね。たとえば卒業後にたとえばアイカムス・ラボに就職するってことは考えたりしますか」
「しません。TOLICの中の企業ならTOLIMSに行きたいですね」
この答えは意外だった。TOLIMSはTOLICの製品の海外販売を促進する企業である。つまり、開発や製造ではなく、営業を主体とする企業である、高専でたっぷり技術を学んだあとでTOLIMSに就職したいというのは予想外だ。ただ、今回の高校生と高専生を帯同してのドイツ行きも、TOLIMSが幹事だった。このことは影響しているのだろうか。
「僕は、技術系の学校に通っていますけども、技術を究めるというよりも、人と会ったりするほうが性に合っているんです。今回のドイツ行きで、TOLICのブースに立って商品説明しているときに、そのことを実感しました」
長村さんや上野さんにこのように言わせたことだけでも、若い人たちをMEDICAに連れて行くという企画は大成功だったと言えるだろう。
おそらくこれからの若い人たちは、たとえ大都市のいわゆる一流企業と呼ばれる会社に就職しても、故郷を振り返る時がきっとあると思う。その時、TOLICはそのような思いを受け容れられるだけの企業群に成長しているだろうか。そのことを見極めるためにも、今後も岩手に通い続けたいと思う。