名画『夜警』からレンブラントの絵画技法を解き明かす化学物質発見

夜警(1642年)。より適切な名称は『フランス・バニング・コック隊長とウィレム・ファン・ライテンブルフ副隊長の市民隊』(Getty Images)

これまで完成した絵画から検出されたことのなかった化学物質がレンブラントの作品で見つかった。オランダのアムステルダム国立美術館の研究チームは、所蔵する代表的絵画であるレンブラントの『夜警』を、過去数年間入念に調査してきた。これまでにも彼らは、絵具の下に隠された下絵など、作品の秘密をいくつか発見。そして、この作品で見つかるとは予想されていなかった鉛化合物を新たに発見したことを発表した。

『夜警』は17世紀に巨大なキャンバスに描かれ、その構図と技法は後世の多くの画家に影響を与えた。レンブラントがどのように仕事をしていたかを理解することは、彼が用いた技法を画家たちに教えるだけでなく、レンブラントの作品を保存するためにも役立つ。

研究チームが興味を持ったこの絵画の謎の1つは、レンブラントが使用した絵具の組成だった。それを研究するために、チームはX線スキャナーを使って絵具の層を調べた。この方法によって、絵画の明るい領域、例えば登場人物の襟に当たった光の反射部分に、ギ酸鉛と呼ばれる化学物質が含まれていることを発見した。

この物質は、これまで完成した絵画から見つかったことがなく、模写などからしか見つかっていない。「古い名画から検出されなかったのは、おそらく消失するのが早かったのでしょう」とフランス国立科学研究センター(CNRS)研究員で今回レンブラント作品の分析を率いたビクター・ゴンザレスが、フランスにある欧州シンクロトロン放射光施設(ESRF)に述べた。ESRFでは本研究の測定の一部が実施された。

その化学物質はどこから来たのか? これまでの知識に基づき、研究チームはそのギ酸鉛が油絵で使用される乾性油を使った後に形成され、その油に鉛化合物が含まれていたのだろうと推測した。この仮説を検証するために、彼らは1633年のレシピに従って乾性油にアマニ油と酸化鉛を混ぜ、油が乾いた後に何が起きるかを調べた。そして乾性油の中に入っていた化学物質が反応し『夜警』で見つかったものと同じギ酸鉛を形成することを発見した。それは、レンブラントが絵を描く時にこのタイプの乾性油を使っていたことを示唆していている。

「このギ酸鉛は、レンブラントが鉛を使用した油絵の具を使用していた可能性や、過去の保存処理に使用された油性ニスの影響の可能性、ひいては歴史上重要な絵画の化学に関する重要なヒントを新たにもたらすものです」とアムステルダム国立美術館の科学主任、カトリン・クーナがESRFに話した。

これは、絵画研究者が貴重な歴史的作品を保護する最善の方法を理解するために必要なパズルの一片にすぎない。『夜警』については過去数年、複数の研究が行われているだけでなく、他の美術館の芸術作品についても科学者が研究している。しかし、1つの作品を研究するだけでも、過去の芸術家がどのように仕事をしていたかについて多くの情報を得ることができる。

「この研究はレンブラントの絵画技法に関する情報をもたらすだけでなく、過去に使用された顔料の反応性に関する研究、さらにはその結果として遺産の保護に新たな道を開くでしょう」とアントワープ大学教授のコーン・ヤンセンは述べている

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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