地球の内核に関する間違い記事、「逆転」ではなく「回転が遅くなった」

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科学は難しい。科学について書くことも難しいが、実際に科学に携わることほど難しいことは滅多にない。それでも私たち科学ライターは科学を間違って捉えてしまうことがよくある。

今回はその極端な例かもしれない。地球の内核がその外側にあるマントルに比べて回転が遅くなっているという新発見に関する先日の報道だ。

地球の構造を思い浮かべるとよいだろう。地球の内殻は固体の球体で液体である外殻に包まれている。内核が外側の層よりも遅く回転できるのはこれが理由だ。事実上内核は、地球の中心で融けた金属の海の中を自分のペースで回転している。

そして、非常に研究が困難なことで知られている地球の核で起きていることをもっと理解しようと、さまざまな研究が地震データを使って行われてきた。正直なところ、それらのデータの解釈を巡っては相反する議論や不一致が数多くあり、核の仕組みがどうなっているのか、なぜ今考えられているような動きをしているか、それらが地表にどんな影響を与えるのか、ほとんどわかっていない。

実際、先にNature Geoscienceに掲載された論文に書かれている内容に対しても、反対意見はある。

「これは優秀な科学者たちによる膨大なデータに基づくきわめて慎重な研究です。(しかし)これらのデータすべてをうまく説明できるモデルは存在しないというのが私の意見です」と南カリフォルニア大学の地震学者であるジョン・ヴィデール教授がAFPに話した

長年にわたり複数の研究が、内核はマントルの回転と比較して、スピードが速くなったり、遅くなったり、一時停止することさえあると報告している。一種の混乱状態だ。

ただし、絶対に起きていないのは、ほとんどの地球科学者の知るかぎり、地球の内核が実際に逆転し反対方向に回転し始めているということで、それは主要メディアの数多くの見出しが今でも述べていることだ。

「私の見た記事はすべて完全に間違っています」と天文学者のフィル・プレイトがTwitter(ツイッター)に書いている。


見出し担当者にはこれ以上なく厳しくいう他ない。私自身同じような間違いを犯したことがある。問題の研究の要旨を見るだけで、どうして間違いが起きたのかが容易にわかる。

論文の要旨には「内核の回転が最近停止した」ことを示唆するデータのパターンについて書かれており、それが「内核が徐々に逆回転(turning-back)することに関連していると思われる」とも書かれている。

核の回転に関する過去の研究のプレスリリースにさえ、回転方向が変わったことを示唆するような表現があり、プレイトはミスリーディングだと指摘している。

「変わったのは回転の『速度』だけです」とプレイトは2022年に書いている。「高速道路で車を追い越すときのようなものです。あなたから見ると相手のクルマは後ろ向きに動いているように見えますが、地上にいる人にとってはあなたより遅く動いているだけです。視点の位置が重要です」

科学者が内核の回転が「turning back」あるいは「shifting back」しているというとき、それはスーパーローテーション(外殻よりも速く回転している)とサブローテーション(外殻よりも遅く回転している)の状態を行き来していることを指しており、回転方向は常に同じだ。

ときとして科学の言葉は日常の言葉と一致せず、矛盾することさえあるが、ジャーナリスト(私を含む)には心に留めておくべき簡単な解決方法がある。いつでも科学者本人に電話をかけて確認すればよい。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

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