大企業の場合には、ジョブローテーションによって担当者が短期間で異動しがちなため、改善プロセスまではなかなかやりきれない事情もある。しかしそれを言い訳にしていては、いつまで経ってもD&Iは実現しない。
今回は、改善のプロセスで担当者の前に立ちはだかる3つのハードルと乗り越え方を解説する。
まずは従業員の本音を引き出す
D&I施策を改善するために重要なのは、従業員へのサーベイやアンケートの結果だ。しかし残念ながら、そこに従業員の本音が表れているとは限らない。たとえ匿名であっても、「マイナスなことを書くと自分へ不利に働くのではないか」という懸念から、差し障りのない回答をしたり、フリーコメント欄を空欄のまま提出する従業員も多い。したがってD&I担当者は、改善のプロセスでまず従業員の本音を引き出しにいく必要がある。私はかつて、昼休みの時間を利用して育児中の従業員との座談会を開催していた。そこではアンケートやサーベイには出てこない、多くの本音が語られていた。
座談会を有意義なものにするためには、D&I担当者のファシリテーションスキルや積極的な質問が鍵となる。私は参加者に「家での家事分担はどうなっていますか」「会社で性別による不公平さを感じたことがありますか」といった具体的な質問を重ねてきた。
匿名のアンケートでさえ本音を出さないのに対面でそれをできるのか、と疑問に思う読者もいるかも知れないが、出席者が誰か一人でも「実は……」と語り始めれば、同調してポロポロと他の出席者も本音を語り始めたりする。各部署への協力依頼やスケジュール調整などの手間はかかるが、「改善材料を十分に集められていない」というD&I担当者には、ぜひ試してほしい。
上下からアプローチできる体制を築く
D&I施策の改善を進める際には、適切なキーパーソンの巻き込みが重要だ。私は会社員時代、D&I施策に非協力的な部署の理解を得るために、社長からその部署のトップに働きかけてもらったことがある。すると一夜にして効果が現れたが、これは社長がD&Iの重要性を認識しているかにかかっていたりする。キーパーソンは必ずしも社長である必要はない。もっと言うと、役職は特に関係ない。大切なのは、動かしたい人物の「心」と「時間」に働きかけられるリーダーシップを持つ人物であることだ。そしてできれば、社長のようにトップダウンの動きを実現できる人物と、例え若手でもリーダーシップを持ち、ボトムアップの動きを実現できる人物、上下からサンドイッチのようにターゲットへアプローチできる体制を築くことが望ましい。