アジア

2023.01.11

巨大化しているのは金正恩だけではない。焦る北朝鮮の兆候はこんなところにも

朝鮮労働党中央委員会総会拡大会議の決定を貫徹する平壌市民の決起大会が5日開かれた(労働新聞ウェブサイトより)


元幹部は「規模の変化には必ず政治的な動機がある。あの国で政治的な動機がないことはありえない。考えられる仮説は二つだろう。一つは金正恩が自分の力に自信を持ったから。もう一つは自信がなくて不安だから」と語る。

金正恩氏の昨年末の党中央委総会での報告を見る限り、前者とは考えにくい。報告は2023年の施政方針演説という性格を持っていたが、例年必ず言及する金属、石炭、電力、運輸の「4大先行部門」(まず解決しなければならない経済の重要課題)に触れないなど、経済部門の成果への言及がほとんどなかった。北朝鮮が最近報道する経済部門の内容をみても、地方の小規模な工場が目立ち、基幹産業や大規模工場の成果についての動きがほとんどない。党中央委総会では軍事部門の各部署トップを総入れ替えもしていた。「正恩氏は不安にかられている」と見た方が自然だろう。

不安だから、より大勢の人間を集め、自分に忠誠を誓っているのかを確かめたくなる。巨大な行事をみせて、市民に畏怖の気持ちを抱かせ、自分に反抗しようという気持ちを萎えさせよう。正恩氏の心情を慮れば、ざっとそのようなものだろう。正恩氏は元々、平壌市に建設した高層ビル群、日本海側に建設した馬息嶺スキー場のような巨大娯楽施設、元山葛麻観光団地のホテル群など、「巨大建造物」に強い執着心を持ってきた。中央委総会での報告で「国の核爆弾保有量を幾何級数的に増やす」と語ったのも、同じような心理から来ている発言だと考えられる。

新春公演に出席した金正恩氏の姿を見ていると、体重も元に戻ったようだ。韓国国家情報院などによれば、正恩氏は2011年末に権力を継承したときは、体重80キロ程度だったが、2021年初めまでに140キロまで増えた。その後、ダイエットして21年夏くらいには120キロくらいにまで減った。ところが、22年4月ごろから再び増え始め、現在は130キロ程度だとみられている。髪形は以前のように、極端に刈り上げるスタイルに戻ったため、一時期後頭部にできていた、できものは完治したようだが、ストレスは相変わらずのようだ。

金正恩氏への尊称も「主体朝鮮の太陽」「敬愛するアボジ(父親)」など、行き着くところまで行き尽くした感じだ。これから、一体どうするつもりなのだろうか。それにしても気の毒だったのは、深夜までスタジアムに留め置かれた市民たちだった。大晦日の深夜、平壌の気温は氷点下5度以下だったようだ。職場や地域で車などを手配して帰ったのだろうが、ご苦労このうえない。元党幹部は「北朝鮮の市民に選択肢はない。それがあの国のルールだ」と語った。

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文=牧野愛博

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