アジア

2023.01.11

巨大化しているのは金正恩だけではない。焦る北朝鮮の兆候はこんなところにも

朝鮮労働党中央委員会総会拡大会議の決定を貫徹する平壌市民の決起大会が5日開かれた(労働新聞ウェブサイトより)

2022年の大晦日。日本のお茶の間が紅白歌合戦などに見入っているころ、平壌ではど派手な公演が繰り広げられていた。平壌を流れる大同江の中州にある5月1日競技場(メーデー・スタジアム)で行われた、「2023年新年慶祝大公演」だ。金正恩総書記ら幹部も出席した。朝鮮中央テレビが23年1月5日に放映した2時間余りの録画放送を見て、脱北した朝鮮労働党の元幹部は「卒倒しそうになった」という。「年々、エスカレートしてきたが、遂にここまで来たかという感じだ」

かつて1995年には故アントニオ猪木選手がプロレス興行も行ったこの競技場は10万人以上を収容する能力がある。今回の公演では、グラウンドにもペンライトを持った市民が密集していたため、20万人近い参加者がいたとみられる。仮設舞台には大型スクリーンが設置され、北朝鮮が誇る22年の「業績」や金日成主席、金正恩氏らの姿などが映し出される。国歌斉唱、国旗掲揚のあとは、五輪の開会式かと見間違えるような「聖火台への点灯」を行った。次々と演奏される曲は、モダンなドレス姿の女性たちが歌うことで洗練されたイメージを振りまくが、歌詞の随所に党への忠誠や金正恩氏を称賛する言葉がちりばめられていた。その他、アイスダンスあり、花火ありと派手な演出が続いた。時折、映し出された金正恩氏は満面の笑みで、上機嫌ぶりが際立っていた。

北朝鮮は金日成主席の時代も、年末年始に迎春(ソルマジ)公演を行ってきたが、場所は平壌の4月25日文化会館などだった。この施設は大劇場で5千から6千席ほどあるとされている。正恩氏の時代もしばらく、おなじような規模での開催だったが、2021年の年末は金日成広場で新春公演と新年のカウントダウンを行った。そして22年末が5月1日競技場での開催だ。参加人数だけでいえば、4月25日文化会館のころより、規模が40倍近くになった計算になる。

規模が巨大化しているのは、新春公演だけではない。昨年末に行われた朝鮮労働党中央委員会総会拡大会議の決定を貫徹する平壌市民の決起大会が5日開かれた。場所は、やはり5月1日競技場だった。労働新聞は「首都の10万人余の党員と、勤労者、青年学生たち」が参加したと伝えた。年初の決起大会は、北朝鮮の恒例行事だが、昨年1月5日に行われた平壌市決起大会は、金日成広場で行われた。明らかに規模が大きくなっている。
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文=牧野愛博

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