ただ、今回の訪米は外交政策だけ考えると、それほど大きな意味があるとは思えない。ホワイトハウスの報道官は3日付の声明で、バイデン氏が、日本が改定した国家安保戦略や今年5月に広島で開かれる主要7カ国首脳会議(G7サミット)への「全面的な支持を示す」と説明したという。支持をもらうだけなら、首相が別にワシントンまで駆けつける必要はないだろう。
実際、複数の日米関係筋によれば、日本が昨年12月16日に国家安保戦略などを改定したことで、日米が政治レベルで調整する喫緊の課題はないという。関係筋の1人は「新しい日米防衛協力の指針(ガイドライン)を予測する声もあるが、そんな話は全く出ていない。今は、米軍と自衛隊の連携調整で忙しくて、ペーパーをいじっている余裕などない」と語る。別の1人も「ガイドラインは本来、日本に新しい防衛政策をやらせるための布石になるもの。日本が国家安保戦略を改定し、自ら動き出した以上、米国として注文をつける必要はない」と語る。11日には、日米外務防衛閣僚会合(2プラス2)がワシントンで開かれる。現段階では、それで十分だろう。
では、なぜ、岸田首相はワシントンに行きたいのか。かつて閣僚の秘書官を務めた日本政府関係者は言う。「広島G7サミットの後の解散に向けた号砲でしょう」。岸田内閣の支持率はどんどん落ち続けている。日本経済新聞社の世論調査によれば、政権発足以降、最も高かったのは22年5月の66%だったが、その後、7カ月連続で下がり、12月には35%とほぼ半減した。毎日新聞が昨年12月18日に発表した支持率は25%だった。この支持率では、来年9月に任期満了を迎える自民党総裁選で再選される展望が開けない。どこかで解散・総選挙に打って出て、批判が出ている防衛増税などへの「みそぎ」を済ませ、反転攻勢に移りたいと考えているようだ。解散するなら、自民党の議席減を最小限に抑えられる時期が良いと考えるだろう。そうしないと、自民党議員から「自爆解散だ」と反旗を翻され、解散を封じられて内閣総辞職に追い込まれかねないからだ。