岸田首相は訪米に合わせ、フランス、イタリア、英国、カナダも訪れる。松野博一官房長官は6日の記者会見で「G7広島サミットに向けた議長国としての考え方を説明する」などと語り、広島サミットに向けた下準備であることを認めた。これから、様々な機会を利用してサミットへの雰囲気を盛り上げ、岸田内閣の支持率回復につなげたいという考えなのだろう。
しかし、岸田首相がどうしても訪米したいというのであれば、別にやるべきことがあるのではないか。岸田首相は4日の記者会見で「唯一の戦争被爆国として、ロシアによる核による威嚇は断じて受け入れることはできない。核兵器のない世界にむけても、G7として世界にメッセージを発することがG7広島サミットでできると思っている」と語った。
「非核三原則の堅持」は岸田首相の数少ない政治信念の一つで、岸田政権になって以降、拡大抑止力に関する政策立案はほとんどできない状況に陥っていると漏れ聞く。ただ、岸田氏は国家安保戦略の改定を受けた昨年12月16日の記者会見で、「安倍政権において成立した平和安全法制によって、いかなる事態においても切れ目なく対応できる体制が既に法律的、あるいは理論的に整っていますが、今回、新たな3文書を取りまとめることで、実践面からも安全保障体制を強化することとなります」と語った。これは、平和安全法制によって認められた、米軍を守るための集団的自衛権の行使を、より実践的に行うという意味だ。米軍艦船を守るために、反撃能力を使うことも想定しているのだろう。確かに、日本の安全保障を徹底的に追及した場合、最後の答えは「日米の一体化」しかない。核兵器もなく、軍事力で劣る日本が単独で、ロシアや中国と正面から対決することはできないからだ。
もちろん、そのような選択に反対することはできる。「日米一体化は嫌だから、日米同盟を破棄して米国や中国、ロシアとの間で中立的な関係をつくる」という主張は理論的には可能だ。ただ、日本政府はそのような考えはとらないことを、12月16日の会見で改めて明確に示した。そこまでの覚悟があるなら、岸田首相は訪米した際、バイデン大統領に「日本に広げた核の傘を絶対に外さないと約束しろ」と談判するくらいの覚悟が必要だ。日本が核攻撃の脅威にさらされたとき、ワシントンが絶対に日本を見捨てないという確約を迫るべきだろう。「核のない世界」の理想は捨てるべきではないが、今ことさらこの主張をすれば、米国から軽く見られる可能性がある。「米韓合同核演習の実施」をぶち上げて、米国を慌てさせている韓国の尹錫悦大統領の方が、よっぽどましに見えてしまう。
岸田首相の論理展開をみていると、まず自分の政権の存命と政治哲学の維持が先に来て、国の運命は二の次にしているようにしか見えない。
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