「やせる薬」が実現するか 体温をコントロールする神経細胞群を特定

Getty image

人間の体温を一定に保ったり、感染症では熱を上げて細菌の増殖を抑えたりするときに、体温調節の命令を下す司令塔「マスター神経細胞」が判明しました。そこを活性化させると体温が低下し、働きを抑制すると体温が上がります。これが自由に行えるようになれば、人の体温を自由に調整できるようになり、さらには脂肪の代謝を促してやせる薬、なんていうのも夢ではなくなります。

名古屋大学と順天堂大学の共同研究グループは、ラットを使った実験により、体温調整を指揮する神経細胞群を特定しました。脳の視床下部にある視索前野の「EP3ニューロン群」です。実験では、ラットを36度の高温環境に置くとEP3ニューロン群が活性化して皮膚血管が拡張して熱放散が起こり、体温が下がりました。発熱メディエーターと呼ばれる発熱を促す物質を与えるとその活性が抑制され、体温が上昇しました。

このEP3ニューロン群を人為的に制御する技術を開発すれば体温の人工操作が可能になり、熱中症、低体温症の治療、全身麻酔での手術時の体温管理といった医療分野での応用が可能になります。地球温暖化による暑熱環境への人体の適応も可能になるかもしれません。また、EP3ニューロン群の神経伝達を抑制すると褐色細胞組織で熱生産が行われることから、体温を少し高めて脂肪の燃焼を促すこともできます。つまり、新たな肥満治療技術です。さらに、体温を上げて脂質代謝を高めてやれば、脂質異常症などの疾患の予防や改善も望めます。今後はEP3ニューロン群を軸とした、さまざまな研究の展開が期待できると、研究グループは話しています。

文 = 金井哲夫

ForbesBrandVoice

人気記事