物語の力
25年以上の交渉経験を持つワイスが最も成功した会話は、多くの場合、1つの点に集約される。それは、効果的なストーリーテリングだ。
「ほとんどの人は、物語に共感する」とワイスは話す。「子ども時代を振り返ればわかるだろう」
ワイスによれば、交渉で行き詰まったときも、物語を共有することで、他の可能性を模索できるようになるという。
「物語は、学習に役立つだけでなく、交渉中に教訓を思い出したり、会話の流れを変える方法を思い出したりするのに役立つ」とワイスは説明する。
つまり、別の人が同じようなジレンマを経験した事例を思い出すことで、現在の会話のなかで生じている感情と、距離を置くことができる。多くの場合交渉者は、自分ではなく他の人や状況に関する問題を解決するときに、より創造性を発揮できる。
交渉の過程で、自分自身の思い込みや動機、従来の考え方に凝り固まってしまうことがあるが、そこで物語の力を借りることで、他の解決策に目を向けることができるのだ。
「思い込みは、思考の妨げになる」とワイスは話す。「トレーニング(や外部の人)が提供できる最大の価値は、『自分が前提としていることを疑うこと』だと思う」
妥協は不要
ワイスは、交渉にまつわる「神話」、特に、最適な取引の妨げになる神話をいくつか覆した。ワイスが取り上げた最大の神話の一つが、「交渉は妥協がすべて」という考え方だ。
「妥協は、交渉の同義語だ、と多くの人が考えている。しかし私に言わせれば、それは極めて狭量な考え方だ」
ワイスはさらに続ける。「人は、困難な状況になると、慌てて妥協してしまう。難しい問題に直面し、解決できないとき、妥協して先に進めようとする人が多すぎる」