経済産業省が2022年8月に公表した「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」は、企業に対して、企業自身と社会のサステナビリティ(持続可能性)の「同期化」に必要な経営・事業改革、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)を促している。
気候変動、人権問題、パンデミックなど、急激に事業環境が変化し、社会のサステナビリティを企業経営に織り込む重要性が高まっているからこそ、SXの実践が「これからの稼ぎ方」の主流になるという。コーポレートガバナンス改革をけん引した14年の「伊藤レポート」、17年の「伊藤レポート2.0」に続く第3弾だ。
同じく、経済産業省は22年5月、「人材版伊藤レポート2.0」を公表。「人的資本経営」の重要性、「経営戦略と人材戦略の連動」の必要性を説き影響を及ぼした「人材版伊藤レポート」(20年9月発表)に、変革を実践するための事例集を追加した。「サステナビリティ」「人的資本」をめぐる企業経営の現在地について、それぞれ研究会の座長を務めた一橋大学CFO教育研究センター長の伊藤邦雄に聞いた。
──「伊藤レポート3.0」の狙いは。
14年の「伊藤レポート」公表以降、ステップを踏んで議論を進めてきた。「3.0」版だけで論じるのではなく、全体を通した理解が必要だ。共通しているのは「企業の稼ぐ力が大事だ」という問題意識だ。「伊藤レポート」では、「ROE(自己資本利益率)8%以上」という基準を提言した。
17年の「伊藤レポート2.0」では、無形資産投資、ESG(環境・社会・企業統治)への対応が、中長期的な企業価値向上のために必要だと強調した。そして、企業と投資家の対話のための共通言語として「価値協創ガイダンス」を策定した。
以降、大企業のROEは向上したが、企業価値創造力は相変わらず弱いまま。TOPIX(東証株価指数)500構成銘柄のうち、約4割がPBR(株価純資産倍率)1倍を割っている。恐ろしい状況だ。では、財務(ROE向上)、非財務(無形資産投資、ESG)の次に何が必要か。それらの融合・統合を図るための「持続可能性の追求」だというのが「3.0」版だ。