ビジネス

2022.12.30 17:00

これからの経営は総合格闘技戦へ「伊藤レポート3.0」「人材版伊藤レポート2.0」公開


「人材版伊藤レポート2.0」には、実践が伴わなければ変化しないという思いから、人的資本経営という変革を行うための具体的な実例集を盛り込んだ。これまでも「日本企業の再生には、人的資本への投資しかない」と言い続けてきたが、背景には「人は石垣」と言いながら「人的資本への投資をどれだけやってきたのか」という問題提起がある。

人的資本経営には、人的資本への投資、人材戦略の構築を扱った同レポートの公表とともにもうひとつの契機がある。人的資本情報開示を扱う政府による「人的資本可視化指針」の発表(22年8月)だ。

日本企業はこのふたつのレポートを併せて活用し、その相乗効果で、前に進んでください、と。こうした動きを持続的に定着させるために320社が参加する官民共同の「人的資本経営コンソーシアム」も同年8月に立ち上げた。

「価値は統合から生まれる」


──いずれも企業の持続的な価値向上を目指す点で共通する。

そうだ。「伊藤レポート」はすべてつながっている。とはいえ、経営の難易度はますます上がっている。向き合うテーマが増え、今後も増えていく。TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示の義務化や、来秋にはTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の開示方針も決まるなど、経営の空間が広がり、構成要素も増え、より複雑化している。

「総合格闘技」を闘っている状況だ。個々のテーマや課題に取り組むうえで、必要な能力(技)を磨くことも大事だし、それぞれの能力を環境の変化に応じて組み合わせ、融合する力(技)も必要になる。「神は細部に宿る」に加えて、細部をいかに統合するか、で価値が決まる。いわゆる「価値は統合から生まれる」という状態だ。

経営者は、不確実性の高い状況下で、複雑な連立方程式を解くような難しい意思決定が求められる。今後は、これまでのようなジェネラリスト的な経営者では総合格闘技を闘えない。経営者の資質がより問われるようになるだろう。


伊藤邦雄◎一橋大学CFO研究センター長・同大経営管理研究科名誉教授。一橋大学大学院商学研究科科長・商学部長、一橋大学副学長を歴任。ROEを8%に高める必要性を訴えた経済産業省「伊藤レポート」は海外でも大きな反響を呼び、日本のコーポレートガバナンス改革をけん引した。

文=池田正史 イラストレーション=カジサ・ホルガーソン

この記事は 「Forbes JAPAN No.100 2022年12月号(2022/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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