ビジネス

2022.12.27 10:30

起爆剤は「異なる会社」と「異なる地域」買収と相互理解で目指す、世界のルネサス

ルネサス エレクトロニクス 代表取締役社長兼CEOの柴田英利

ステークホルダー資本主義ランキングで、「従業員」と「地球」が高スコアだったルネサス エレクトロニクス。

半導体メーカーからソリューション提供企業へ。「トランスペアレント」と「アジャイル」でつくる組織の姿とは。


いまや半導体はあらゆるところに入り込み、人々の生活を支える必需品になった。短期的にはボラティリティー(変動性)が高いものの、中長期では需要が高まる一方だ。ただ、用途が拡大するからこそ、ルネサス エレクトロニクス(以下、ルネサス)CEOの柴田英利はパーパス「ToMake Our Lives Easier」を強調する。

「私たちは半導体を通して世の中の苦しみや不安を解決したい。半導体技術により、人が生きていくうえで『大変』と思うことを軽減したい。一人ひとりがハッピーな人生を送れれば、社会もいきいきとしたものになっていくはずです」

社会のペインを取り除くための半導体用途はさまざまだが、そのひとつはモビリティだろう。ルネサスの全MCU(マイコン)におけるシェアは16%で世界2位。車載用をはじめ産業、インフラ、IoT用などの半導体も提供している。車載用MCUに限ればシェア30%で世界一だ。また、同社の半導体はエネルギー効率の高さなど環境性能の側面からも評価されている。

とはいえ、車載用をはじめ競争は激しい。ルネサスはふたつの戦略で顧客の期待に応える方針だ。ひとつは、半導体を一つひとつ提供するのではなく、組み合わせたかたちで提供する「ソリューション」。もうひとつは、同時並行的なソフトウェア開発を可能にする半導体設計の「デジタライゼーション」だ。いずれも顧客の開発スピードが上がり、世の中をよくする製品がより早く社会に実装されるようになる。

問題は、これらの戦略をどうやって実現するか。ルネサスは日立製作所、三菱電機、NECの半導体部門にルーツをもち、日本企業のカルチャーを色濃く受け継いでいる。やり方をドラスティックに変えるべき場面では、日本型カルチャーがブレーキになりかねない。

どうやって働く人の意識を変えて、新しい挑戦を促すか。起爆剤となるのが海外企業の買収だ。同社は17年に米Intersil、19年に米IDT、21年に英Dialogと、大型M&A(合併・買収)を立て続けに実施した。

「これまでにないことに取り組むには、ふたつの軸ー異なる社会、異なる地域ーで多様性を進める必要がありました。海外企業を買収することで、経験や発想の多様性をつくりたかったのです」

相次ぐ買収や再生後の採用で多様性は進み、内部出身者の割合は6割を切るまでになった。ただ、新しい血の導入は劇薬になりうる。急速な変化についていけずに脱落する社員が続出すれば、組織が瓦解しかねない。変革を進めるにあたって柴田が意識したのは、買収の順番だった。

「売りに出た会社を出合い頭に買ったわけではありません。Intersil買収でまずシリコンバレーのスタイルを学び、仕事に対して積極的な社買で構成されたIDTの買収でアグレッシブさを吸収して、グローバルなDialogの買収でマルチカルチャーのマネジメントに慣れていった。学ぶべき要素が少しある会社を順番に仲間にすることで、一気に背伸びしなくて済みました。順番が逆なら、くしの歯が欠けるように人が辞めていったかもしれません」
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文=村上 敬 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN No.100 2022年12月号(2022/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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