ビジネス

2022.12.27 10:30

起爆剤は「異なる会社」と「異なる地域」買収と相互理解で目指す、世界のルネサス


アジャイル経営で従業員を変える


新たに策定した、複数の要素からなる「ルネサスカルチャー」も変革にちゅうちょする社員の背中を押した。例えば「トランスペアレント」と「アジャイル」だ。

「意見が違ったり衝突があってもいいんです。違いがあればそれを隠さずにテーブルの上に載せて、どうすればベストな方向に進むかをオープンに議論することが大切です。そして、議論したらいったん決めて、とにかく試そうと言っています。それで失敗したってかまわない。早く失敗して早く直せば、いくらでも取り返しがつきます」

こうした工夫をしたからといって、もちろんすべての社員が理想通りに変わっていくわけではない。柴田も「まだ生みの苦しみの最中」と胸中を明かす。

ただ、明るい兆しはあった。ルネサスは20年、社員を対象に自由参加型1円ストックオプションを付与した。経営の安定性にはキャッシュが重要。そこで現金で給与を受け取るのではなく、一部はストックオプションでもいいという従業員を募った。

「当時はコロナ禍で自動車関連の受注が落ち込み、先行きが不透明な時期。ストックオプションは落ちるナイフをつかむようなもので、せいぜい5%も希望者がいればいいと思っていました。しかし、いざ募ったら、株式でもいいと言ってくれた従業員が約15%と想像以上に多くて、この会社も捨てたものじゃないなと」

柴田はもともと投資家側にいた。13年、当時在籍していた産業革新機構(現INCJ)がルネサスの再生を手がけることになり、最初はCFOとして経営に参画した。投資家側から事業会社側に転身して、人への意識は変わったという。

「以前は企業の外の人、いわゆるステークホルダーに意識が行っていましたが、経営に携わるとなかの人が気になるようになった。平均寿命を80歳とすると半分の40年、一日の3分の1の時間は働いているわけです。その時間をいきいきと過ごす人ー私の解釈では、人生を自分の選択でつくる人ーが多いハッピーな会社にしていきたいですね」


ルネサス エレクトロニクス◎日立製作所、三菱電機、NECを起源とする半導体メーカー。自動車、産業、インフラ、IoTの4分野にソリューションを提供。2021年12月末時点で、世界30カ国以上に約2万1000人の従業員を擁する。

柴田英利◎東海旅客鉄道、メリルリンチ日本証券、産業革新機構などを経て、2013年からルネサス エレクトロニクス取締役執行役員常務兼CFO。19年7月から現職。同社の経営再建に長く携わり、米Intersil、米IDT、英Dialogなどの大型買収も手がけた。

文=村上 敬 写真=吉澤健太

この記事は 「Forbes JAPAN No.100 2022年12月号(2022/10/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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