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2015.06.09 09:30

アップル 「地図ソフト」改善への遠い道のり

Googleに遅れること8年、Appleもついに全米での地図データ収集を始めた (Photo by Peter Meißner/ullstein bild via Getty Images)



Appleは自動運転車の製造を計画しているのかもしれない。複数のメディアもそう報じている。

COOのジェフ・ウィリアムズは先日、この点について大きなヒントを示した。これまでAppleは、小規模の秘密プロジェクトとして自動車技術の開発を行っていたが、今回、ウィリアムズは、自動車は「究極のモバイルデバイス」であるとし、会社として高い関心を持つに至ったことを明らかにした。

しかし、Appleはこれまで地図サービスにおいては汚点を残している。自動運転車には無関係かもしれないが、カーナビを搭載した車を製造するのであれば、世界で最も信頼性の高い地図サービスを提供する必要がある。

だからこそ、Nokiaが世界的に評価の高い地図事業のHEREを売りに出し、Facebook、Baidu、ドイツの自動車メーカーなど多くの企業が名乗りを上げる中、地図サービスの実績が乏しく、これから自動車開発に乗り出そうとしているAppleが入札に参加しなかったのは奇妙に感じられた。

AppleがHERE買収に名乗りを上げるのは当然のことと思われた。Appleはより高性能な地図サービスを手に入れる必要があることに加え、幹部社員もNokiaと深い縁がある。現在のAppleのCFOであるルカ・マエストリは、かつてNokia SeimensのCFOだった。Nokiaは当初、HEREの売却先候補としてAppleを想定していたと報じられている。

入札に関する情報が、異例なほど多く漏れ伝わってくる中、AppleがHEREの買収に興味を示した形跡は報じられていない。情報筋によると、5月に行われた第1回目の入札では3社が買収に乗り気だったが、Appleは応札すらしていないということだ。

その理由は、Appleが独自路線を歩むことにあるようだ。米ブログメディア9to5MacのMark Gurmanのレポートによると「Appleは独自の地図サービスを自社で開発中だ」という。

Appleの狙いは、従来のサードパーティーの地図サービスへの依存から脱却することにあるようだ。Appleが2012年6月にリリースした地図サービスにバグが多かった理由の一つとして、データをTomTom、Acxiom、Waze、Yelpなど複数の外部ソースから取り込んでいたことが挙げられる。地図インフラを自社でコントロールし、完璧なサービスを提供することで、数年後にはAppleの地図サービスがどれほどひどかったか覚えている人をなくすことがAppleの狙いなのかもしれない。

もちろん、独自の地図データベースを構築するのには何年も要する。HEREはNokiaに買収される前はアメリカの地図ソフトウェア企業Navteq傘下だったが、サービスの構築には15年から20年を要している。これだけの時間を掛けて構築したからこそ、HEREはTomTomのTeleAtlasと並んで世界で最も正確できめ細かく、総合的な地図システムだと評価されるようになったのだ。

問題は、Appleが独自の地図を作るのにどれだけ時間が掛かるかだ。今ではスキャン技術が向上した上に、Appleは既に地図関連企業を数社傘下に収めていることを考えると、HEREよりは早く達成できるかもしれない。伝え聞いた話によると、Googleの車がストリートビュー用の写真を撮影するように、Appleも屋根にカメラを搭載した車を何台もカリフォルニアのベイエリアに派遣しているということだ。

Appleの真意はまだ明らかではないが、車両はAppleが開発した自動運転車のプロトタイプという見方もあれば(これは少し背伸びした見方に思えるが)、地図データをアップデートしようとしているという見方もある。Googleは、2007年にストリートビュー用の車両を全米5都市に派遣し始め、今日も世界中を走らせている。

9to5Macによれば、AppleはGoogleから8年遅れて、ベージュと白黒のミニバンを全米に派遣し、地図データを収集している。Googleとの違いは、Appleはゼロから始めた訳ではない点だ。Appleの地図サービスは3年前の立ち上げ同時に大不評を呼んだが、その後、地図データを管理・分析するスタートアップ企業のHopStop、Locationary、Broadmapなどを立て続けに買収した。今回Appleがミニバンを派遣したのは、Broadmapから購入した地図データを拡張するためだという観測もある。

Appleは当面、サードパーティーから地図データのライセンス供与を受けることを厭わないようだ。一週間ほど前、TomTomはAppleに地図情報を提供する契約を更新したことを認めたが、期間は公表されていない。これによって、AppleはHEREを必要とすることなく、いつものミステリアスな方法で独自に地図データを集める時間を得たことになる。

文=パーミー・オルソン(Forbes)/ 編集=上田裕資

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