経済・社会

2022.12.24 08:45

日本企業が知るべき「真の米中対立リスク」

鈴木一人(左)とケビン・ラッド(右)


同盟国の企業が金融制裁、経済制裁、あるいは技術移転の禁止に関する方針に協力しないと米国は強圧的になることができます。10月7日の輸出制限は実際にそれが展開されようとしています。ただ、そうであっても、経済における安全保障の問題で米国と連帯する必要があります。米国は経済に関する問題に対して、「あなたの国の問題だ」と言って相手にしないかもしれない。しかし、私はそれが唯一の方法だと思うのです。
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鈴木:非常に賢明で、率直なご指摘ですね。私は米国の保護主義的な経済政策と安全保障分野における戦略的連合との間には、根本的な矛盾があると思うのです。戦略的連合を好む政府と、競争の場にいる企業では、ますますジレンマが高まりそうです。最後に日本の読者に、どのようなメッセージをおもちでしょうか。

ラッド:日本企業は、政府とともに、他の同盟国政府とも連携して、米国に対してより幅広い経済連合という概念で圧力をかけることが賢明です。台湾有事の有無に限らず、中国市場へのアクセスは将来にわたって継続されるという前提は危ういです。

中国は将来の成長のために内需を最大化しようとしており、それはGDPに対する輸出入の役割を縮小しようとすることにつながります。加えて、来年、インドが人口で中国を抜くでしょう。中国は急速に高齢化が進み、出生率は韓国に次いでアジアで2番目に低いです。私は22年8月にデリーに行きましたが、インドの政策設定が初めて変化しているのを実感しました。
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インドは14億人の人口をかかえていて、日米豪印の4カ国同盟の仲間であり、民主主義陣営の仲間であります。再生可能エネルギーや安全なサプライチェーンとなる地政学的な機会という点でもインドはいま、経済方針を変えつつあるのです。デジタル化も進展しており、9億人のインドの農民が支払い方法としてデジタル決済システムを利用しています。そこでは「何か」が始まっています。

日本企業が自問すべき正しい質問は「次の成長の原動力はどこにあるのか」のはずです。それはインド、そしてアフリカ、ラテンアメリカでしょう。


ケビン・ラッド◎1957年、豪クイーンズランド州生まれ。オーストラリア国立大学卒業。中国語と中国史に精通。81年外務省に入省、在中国大使館勤務などを経て、年に労働党党首就任。07年第26代オーストラリア連邦首相就任、10年に退任。外相を経て13年に首相に再就任、同年退任。

すずき・かずと◎立命館大学大学院修士課程、英国サセックス大学大学院ヨーロッパ研究所博士課程修了。筑波大学大学院准教授、北海道大学公共政策大学院准教授・教授などを経て現職。2013年から15年まで国連安保理イラン制裁専門家パネル委員を務める。著書に『宇宙開発と国際政治』(岩波書店)など。

文=渡辺将之、編集=成相通子、写真=ヤン・ブース

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