日本企業が知るべき「真の米中対立リスク」

鈴木一人(左)とケビン・ラッド(右)


VCでは10件の投資に対して成功するのは2、3件といわれますが、中国の友人は、「我々の成功率はもう少し低いかもしれない」と認識していました。

ただ、それは国家中心の発展モデルであり、22年の中国共産党全国代表大会の文書でも、国家が中国の技術革命を主導するべきだと示しています。中国の問題は過去3年から5年の間に民間企業を除外しようしていることです。

中国でもアリババ、テンセントなどの世界的なハイテク企業が生まれましたが、政府はイデオロギー的な理由から、企業活動を抑制し、国家と国家研究所の中心性を再び導入しようとしています。

中国の友人に対する私の答えは、「10%の確率で成功するかもしれないが、民間企業の除外が進んでいるため、もっと遅く、非効率になるのかもしれないですね」というものでした。

鈴木:習近平の3期目の特徴はどのようなものになると考えていますか。

ラッド:短中期的と長期的な目標を分けて理解する必要があります。短中期では経済成長を回復させることが目標になってきます。歴史的な文脈で考えると、22年の成長率が2%というのは破滅的な低さです。

低成長は中国共産党と中国国民の間の信頼関係を損なうことになります。すでに中国政府が不動産市場の方向性を変え始めている証拠が見られます。不動産部門に新たなビジネスチャンスを与えようとすることでしょう。

加えて、地政学的な緊張をある程度まで下げること、3つ目として、国民の反発を抑えるためにCOVID-19の制限をできる限り緩和していくでしょう。これが彼が引くことができる3つのレバーです。


ケビン・ラッドの近著『TheAvoidableWar:TheDangersofaCatastrophicConflictbetweentheUSandXiJinping’sChina(未邦訳、回避可能な戦争:米国と習近平の中国との破滅的な対立の危険性)』(PublicAffairs,2022年)。米中に深い見識を持つラッドが二大超大国の行動を分析し、解説。破滅的な惨事をもたらす二国間の戦争を回避するため、「管理された戦略的競争」によって共存する道を提唱する。

鈴木:地政学的な緊張を下げるという観点で、あなたの近著では『戦略的競争』で偶然の戦争を防ぐためのガードレールを設けることを提唱していました。

ラッド:私は5つの戦略的レッドライン、すなわち「台湾」「東シナ海」「南シナ海」「朝鮮半島」「サイバースペース」に関して、周辺国とハイレベルなワーキンググループが必要だと主張しています。現状はインシデントを管理するためのルールと対話の回路が整備されておらず、それは率直に言って誰のためにもならないです。

鈴木:日本では台湾進攻に対する警戒が高まっています。長期的という点では、ロシアのウクライナ侵攻は、中国の戦略に変化を与えたのでしょうか。

ラッド:中国の戦略目標は、タイムテーブルは必ずしも変わっていないと思っています。ただ、私は台湾をめぐって差し迫った戦争が起こる危険性があるとは考えたことがありません。私は2020年代後半から30年代前半にかけて、中国と米国の軍事力が拮抗し、バランスはよくなるだろうということです。のみならず、技術的、経済的なパワーバランスも拮抗するでしょう。

鈴木:日本の経済界では、米国と中国の戦略的競争が激化すことによる日本企業への影響を懸念する声が多く聞かれます。米国は半導体やハイテク製品の中国への輸出規制を強化し、他の国へも同調することを求めていますが、日本企業にとって中国は巨大な市場です。日本企業は政府に従ってしまいがちですが、自律的な判断をできることが必要です。日本企業が何をすべきなのかをお聞かせください。

ラッド:まず言いたいのは、日本だけではないということです。米国のすべての同盟国がジレンマを感じています。米国のほとんどすべての同盟国は中国を第一の貿易相手国としています。同時に米国は彼らの第一の安全保障パートナーでもあります。にもかかわらず米国は経済に関しては、自分たちだけでやるものだと思い込んでいるようです。

インフレ抑制法を制定し、グリーン水素に補助金を出し、自国の半導体産業に補助金を出し、同盟国に半導体の中国への輸出を禁止しようとします。これらは米国経済にとっては有利ですが、同盟国の経済にはどうでしょうか?安全保障に集団的アプローチが必要なのと同様に、経済や技術、エネルギー安全保障などでも集団的アプローチが必要です。

それなのに、米国はTPPへの加入を検討することもできないと言っているのです。米国の友人たちに対する私のメッセージは、「現実を見なければならない。中国に対抗する大戦略に大きな穴が開いてしまう。中国はその穴を利用することができ、実際、ヨーロッパ諸国や他の国々に対して行っている」ということです。
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文=渡辺将之、編集=成相通子、写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN No.102 2023年2月号(2022/12/23発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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