何がいけなかったのか。小渕恵三内閣で首相秘書官を務めた米村敏朗元内閣危機管理監は「安全保障は国家の危機管理の最大テーマ。その主役は国民だ。今回、増税云々の問題の前に、これからのわが国の安全保障のあり方について、その想像と準備を国民にわかりやすく、具体的に説明して理解を得ることが大切だ」と語る。米村氏は岸田氏の対応について「戦前の大きな過ちの原因の一つは、国家としての統一された基本戦略を欠いたまま、その場その場の状況への対処に終始し、あの無謀な戦争に迷い混んでしまった。岸田総理は、その状況主義に陥っていないだろうか」とも指摘する。まさに「おまいう(お前が言うな)」状態に陥っているというわけだ。
岸田首相は昨秋の就任時から、防衛力の抜本的強化を掲げてきた。今年2月にロシアがウクライナに侵攻し、北大西洋条約機構(NATO)加盟国が次々に防衛費のGDP(国内総生産)比2%を掲げると、その流れに乗り、防衛費の増額が一人歩きを始めた。「防衛費が2倍になる」と聞いた防衛省・自衛隊や専門家、メディアなどは「こんな装備が良い」「これも必要だ」という議論に走った。米村氏は「そもそも前提となる、米軍はどう動くのか、そして自衛隊はどう動くのかなどの戦略についてどこまで具体的に議論され、国民に示されただろうか。状況主義の悲劇は決して繰り返してはいけない。それを避ける唯一の方法は、国民への説明と国民の理解だ」と語る。