「広告の仕事に関わる人の多くは、様々なデータを参考に可能な限り多くの人にリーチするメッセージを作ろうと考えがちだ。しかし、世の中の最大公約数を意識して尖った要素を削ぎ落としていけば、面白味のない、退屈なキャンペーンしか生まれない。オーセンティシティの観点から言うと、やるべきことはその逆で、担当者が自分のレンズを通してありのままを伝えていくことが重要だ」
彼女がこの発言を行ったのは、米国のマーケティング業界のスタートアップ「Braze(ブレイズ)」が10月にニューヨークで開催したカンファレンスでのことだ。
「例えばパーティーで初対面の人と会話をする場合、必ずしもお互いの好みが似ているとは限らない。人との交流は、自然な会話の流れの中で互いの共通の興味を見つけることで始まっていく。ブランドと顧客のコミュニケーションもそれと同じで、大切なのはまず、ありのままのプロダクトのメッセージを提示することだ」
米国の広告業界で “ボズ”という愛称でおなじみの彼女のことを知る人は日本人は、さほど多くないかもしれないが、かつてアップルミュージックの顔役を務めた、ノリのいいキャラクターの黒人女性と聞けば、思い出す人も居るはずだ。2016年のアップルの開発者会議WWDCにショッキングピンクのワンピースで登壇した彼女は、白人男性が大半を占めるオーディエンスをリラックスしたデモで沸かせ、多くの人に感銘を与えた。
ネットフリックスで初の黒人女性の経営幹部に就任した当時のインタビュー動画。ペプシ時代にスーパーボウルのハーフタイムショーにビヨンセを起用した際の裏話などを披露している
アップルに入社する前は、ペプシでビヨンセのCMを手がけたセイントジョンは、2017年にアップルを退社後にウーバーに移籍。その当時、セクハラや幹部の不正疑惑で地に堕ちたウーバーのイメージの修復にあたった。その後、大手タレントエージェンシーのエンデバーを経て、2020年6月から約2年間、ネットフリックスの最高マーケティング責任者(CMO)を務めた。
「人は誰でも、自分の個人的な体験に大した値打ちがないと考えがちだ。自分の経験から何かを伝えようとしても、それほど多くの人に響かないんじゃないかと思ってしまう。でも、知らない人との会話が始まるきっかけは、相手にとっては馴染みのない、あなたがよく知っている場所の話だったりする」