ビジネス

2022.12.16 08:00

世界最高のマーケティング責任者が語る「ありのまま」が大事な理由


ウーバーを変えた黒人シングルマザー


セイントジョンが育った土地を、一箇所に限定するのは難しい。ガーナの国会議員だった父のもとに生まれた彼女は、コネチカット州、ワシントンD.C.、ケニヤ、ガーナを転々としながら育ち、12歳のときにコロラドスプリングズに落ち着いた。

「最初の数カ月は本当に大変だった。ボゾマという一般的なアメリカ人が発音しにくい名前を持ったことや、金曜の夜に家に遊びに来た友達に、ピザではなく、アフリカの香辛料をたっぷり使ったスープを出してもてなす母を持ったことは」と、彼女は2017年のニューヨーク・タイムズのインタビューで語った。


ボゾマ・セイントジョン(写真左)は、スパイク・リーの広告会社SpikeDDBを経て、Beats Musicに入社後、アップルのApple Musicの責任者に就任した。Brazeの最高マーケティング責任者のアスタ・マリク(右)は、インドのデリー大学を卒後に渡米し、米国のテクノロジー業界で20年以上のキャリアを誇るベテランエグゼクティブで、ZendeskやVTEXの幹部を務めた後にBrazeに参画した

10月12日から3日間にわたりニューヨークで開催されたBrazeのカンファレンス「FORGE2022」には、世界から数百名のマーケティング業界の関係者がつめかけた。グローバルで約1500社が利用し、月間アクティブユーザーが40億人を超えるカスタマーエンゲージメントプラットフォームであるBrazeのCMOを務めるアスタ・マリクも、インド出身の女性エグゼクティブで、彼女がホスト役を務めたセッションのテーマは自然な流れでダイバーシティの話題に移っていった。

「人生の多くの時間を、社会のアウトサイダーのような思いで過ごしてきた私は、どうすればみんなをパーティーに呼べるかをいつも考えてきた。プロダクトやイベントを人種を問わないインクルーシブなものにしたいと考えてきた。そのために何をすればいいかを考え続けることが、私の仕事だと思っている」

そう話すセイントジョンは、愛する夫をがんで亡くしたシングルマザーでもある。2017年にウーバーが彼女の採用を決めたとき、セクハラや人種差別の温床との批判を浴びた同社が、黒人のシングルマザーを雇うのは、打算的なイメージ対策だという指摘もあがった。しかし、彼女はこう反論した。

「うわべだけの平等主義だなんていう批判は私には当てはまらない。私は、素晴らしい仕事をやってみせる自信があるし、黒人の女性がそこに居るというだけでも、私たちが求めている変化を引き出せるはずだ」

大学卒業後に映画監督のスパイク・リーの広告会社に勤め、ビヨンセやジャネット・ジャクソンのCMから広告業界のキャリアをスタートした彼女は、ポップカルチャーに関する豊富な知見を武器に、白人男性が大多数を占めるマーケティング業界のステレオタイプを打ち破る人々の群れに加わった。

ネットフリックスに在籍中は、韓国の「イカゲーム」やフランスの「ルパン」などの非英語圏の作品を、人種や国境の垣根を超えた世界的ヒットに押し上げた。

「私は根っからの広告業界のオタクで、マーケティングの仕事が本当に好きで、ブランドと顧客のコミュニケーションについて話しだすと止まらない」

真っ白な歯を見せながら豪快に笑うセイントジョンは、オーセンティシティという言葉の底にあるものを、ありのままで居ることの強さを人々に教えてくれる。

取材・文=上田裕資

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