経済・社会

2022.12.13 10:30

ウクライナで大活躍、ピックアップ・トラックは兵器なのか

リビア・ミスラタ 、2011年9月。NATO軍は新型の装備を、リビア反乱軍は支援国から提供された技術を何でも活用した紛争だった。トヨタブランドの車両は、特に旧式のピックアップトラックが積極的に使用された(Photo by John Cantlie/Getty Images)

ピックアップ・トラックやランドクルーザーは、1970年代くらいから中東やアフリカなどで、「テクニカル」と呼ばれる即席の戦闘車両になって使われてきた。1987年に起きたアフリカ・チャドの内戦では、チャド政府軍が荷台に機関砲などを備えたトヨタ製ビックアップ・トラックを投入。リビアから支援された旧ソ連製戦車を使った反政府軍を打ち破り、「Toyota War」と呼ばれた。
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黒木氏によれば、かつてアフガニスタンで、イスラム主義勢力タリバンと対決していた民兵の間で、二の腕にメープル・リーフ(カエデの葉)の入れ墨をすることが流行していた。民兵と協力関係にあった米軍特殊部隊が不思議に思って尋ねると、「メープル・リーフは強さの象徴だ」という返事が返ってきた。当時、民兵たちも「テクニカル」を使っていたが、粗悪品が多かった。そのなかで、「メープル・リーフ」のマークがある「テクニカル」は、故障もなく非常に頑健な車体で高く評価されていたからだという。なぜ、「メープル・リーフ」マークだったのか。当時、トヨタの海外生産工場がカナダにあり、そこで生産された車体にはこのマークがつけられていたという。

ただ、日本がウクライナにピックアップ・トラックを支援することは容易ではない。政府の途上国援助(ODA)の指針となる「開発協力大綱」は、非軍事の分野に限って他国軍への支援を認めているからだ。また、日本政府は今年3月、防弾チョッキやヘルメットをウクライナに支援した。日本には、防衛装備移転三原則があるため、殺傷能力がある兵器を支援できない。支援では、開発途上にある国などに、自衛隊の装備品を譲与したり、安く譲渡したりできる自衛隊法116条の3を根拠にした。でも、そもそも自衛隊の中古品に限られるため、ピックアップ・トラックを提供することは難しいだろう。政府は来年の通常国会中に、開発協力大綱の改定を行い、ODAの例外扱いを認める方針で調整を始めているという。

日本は武器輸出がほとんどできないため、防衛産業にとって「お客様は自衛隊だけ」という状態が続いてきた。儲けにならないため、防衛分野から撤退する企業も後を絶たない。そんななか、ドローンといい、ピックアップ・トラックといい、「事実上の兵器」として活躍しているものもある。黒木氏は「デュアル・ユース(軍民両用製品)がこれだけ増えてしまっては、武器輸出だとしてすべてに規制をかけることはほぼ不可能に近い。根本的に新しい枠組みが必要なのではないか」と語った。
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文=牧野愛博

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