学びのあり方を議論し共創する団体「Learn by Creation」ほか複数の教育団体を主宰する竹村詠美は、日本の教育のあり方に問題意識をもち、先端教育研修の実施やドキュメンタリー映画の上映対話会の普及活動等を通じてクリエイティブリーダーを育む学習者中心の学びの環境拡大支援を行っている。
精力的に活動する竹村が重要視するのは学力絶対主義からホール・チャイルド・アプローチ(WCA、全人教育)へのパラダイムシフトだ。心身頭のすべてを育むことで子ども一人ひとりがその子らしく健やかに成長することを支えるという考え方に基づくこのアプローチは、リーダーシップや分析・創造などの21世紀的スキルを育むことができる。
「いまの時代、アカデミックな知識だけでは不十分。身体や情緒もバランスよく育んでいくことで非認知能力や高次思考力の育成を実現する教育が求められています」
WCAを実践するために注目されているのはPBL(Project Base Learning、問題解決型学習)やSEL(Social And Emotional Learning、社会性と情動の学び)といった教授法だ。PBLは“問い”を軸とした教授法で、人や社会の問題に対し協働しながらソリューションを提案する等、プロジェクトとその“問い”をベースに進められる。目的意識をもって学ぶ姿勢や手法、大人や社会とのポジティブな関係も獲得できる。
一方イェール大学の教授らによって1994年に開発されたプログラムから発展してきた教育法が社会性と情動の学び、SELである。情緒的にも不安定な思春期という時期に、安心して自己開示や可能性の探求ができる環境は、自分をよりよく知り、他者とかかわる力を身につけるためにも重要であると竹村は語る。
一方日本をみると、2020年の小学校での実施を皮切りに主体的・対話的で深い学びを掲げる新学習指導要領が実施されたものの、探究学習やPBLなど指導や評価方法についてまだまだ混乱しているのが現状だ。WCAに対応するための教師のリスキリング、忙殺される教職の働き方改革、予算の拡充が求められる。
また教授法などのいわばノウハウの導入が注目されがちな日本だが、はじめに考えるべきは「公平性」のあり方だという。
「人によって学び方の特性や能力が違うのだから、一人ひとりの子どもにあった環境を提示してあげるべき。それこそが真の平等、つまり公平であるということなのです」
竹村詠美◎マッキンゼー米国本社等外資系7社を経験し、2011年にイベント管理サービスPeatix.comを共同創業。現在はLearn by Creationほか複数の教育団体を主宰、WCA環境拡大支援を行う。