ビジネス

2022.12.13

ノルウェー発「アスペルガー」だけのITコンサル企業のユニークな経営戦略

ラース・ヨハンソン=シェレロッド(右)/ボード・フレドリクソン(左)

もしあなたがITコンサルティング会社で働いているとしよう。クライアントとのキック・オフミーティングで、複雑なソフトウェアの説明がホワイトボード代わりの会議室の壁に次々に記されていく。休憩時間にふと同僚を見ると、いまにも倒れ込みそうなほど、疲れ果てている(実際に横になって昼寝をしだした)。

「どうしたんだい?何かあった?」。驚いて声をかけると「ずっと壁の文字を読み続けてしまうんだ。毎分、毎秒。それが僕をとてつもなく疲れさせるんだ」。

そうと知ったあなたは、慌てて壁の文字を消す。そして、その同僚は、驚異的な論理的思考、分析力、詳細を見る力で、普通の人なら見逃してしまうようなソフトウェアのエラーやバグを簡単に見つけることができる──。それが、とあるアスペルガーの人と一緒に働く、という体験だ。

アスペルガー(高機能自閉スペクトラム症)の人たちだけを派遣する、ユニークなITコンサルティング会社が北欧の国、ノルウェーにある。社名の「Unicus(ウニカス)」はラテン語で「唯一の」「ユニークな」という意味だ。

「自閉スペクトラム症(以下、ASD)のある人は、個人によって、その特徴は異なる。それぞれの特徴をいかに把握し、彼らにとって働きやすい環境を提供することができるかが、私たちの最も大事にしていることだ」。創業者でCEOのラース・ヨハンソン・シェレロッドはそう話す。冒頭のエピソードはシェレロッドがウニカスを創業した2009年ごろ、実際に体験したことだ。

ウニカスは現在、ノルウェーだけではなく、スウェーデンとフィンランド、オランダに展開し、社員は約160人、うち高機能自閉スペクトラム症のITコンサルタントが140人おり、高度なデータサイエンス、ソフトウェア開発、テストなどのサービスを提供している。

クライアントは大手テレコムのテレノールのほか、ノルウェー最大の銀行DNB、石油エネルギー企業エクイノールなどだ。

「社会的意義をもった一流クオリティのサービスを提供する」との目標のもと、21年の収益は700万ユーロ(約10億円)、年に一度社員のQOLなどを調査したインパクトレポートを取りまとめ、昨年は従業員のメンタル・ウェルビーイングが20%も向上した。

シェレロッドは自身の家族にASDのある人がいるわけではない。06年ごろ、金融機関で働いていた彼は、ASDのある人たちとITとの強い関連性に関するスウェーデンの記事を読み、そういった人たちの才能が生かせるような会社をつくるというアイデアと「恋に落ちた」と話す。

「08年には金融危機があった。金融の仕事は性に合っていたし、楽しかったけれど、モチベーションは薄れかけていたし、もっと意味のあることをしたい、世界を変えたい、と思ったんだ。それは私にとって、NGOや国連ではなく、ビジネスを通して実現したいことだった」

創業準備の際は、ASDのことについて深く知ろうと、専門家を訪ねたりしたが、そのなかのひとりに、あまり本を読みすぎないほうがよい、自身の意見に従うことだ、と助言され、実際にそうした。

「最初に、4人のアスペルガーのITコンサルタントを雇って、わかったんだ。似たところはあるけど、みんなそれぞれユニークで、違った強みや弱みがあり、得意なこと、苦手なことがある」
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文= 岩坪文子 インタビュー=柴山由理子 写真= シャーロット・ウィーグ

この記事は 「Forbes JAPAN No.099 2022年11月号(2022/9/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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