──法科大学院生は起業に関心を持っているのでしょうか?
法科大学院生は、現役の弁護士か、これから弁護士になる人なので「すぐに起業しよう」という感じではないですね。ただ、同級生の中には弁護士業のかたわらスタートアップ支援事業を立ち上げ、半分は起業家として活動しているような人もいます。
また、スタートアップが直面する法律やファイナンスの課題を理解できるコースや、チーム組成から事業計画の策定等を経験できる「スタートアップガレージ(Startup Garage)」というプログラム(経営大学院が提供)に、法科大学院生が参加することもあると聞いています。
加えて、一部の授業にはゲストが来るものもあります。シリコンバレーを法律面で支える最前線の弁護士や学者から話を聞くことができます。
教授のほとんどが現役弁護士
アメリカの法科大学院は、ほとんどの教授が弁護士としても活動していて、実務的なトピックが頻繁に出てきます。一方日本では、授業の内容と実務が遠いように思われます。法律はどう使うかが全てなので、スタンフォードのように大学教員と実務家の距離が近いことは意義あることだと感じました。
さらには、スタンフォードには「コードX」という法律家が研究者・起業家・技術者とともに活動する団体があり、法科大学院の教授たちも参加しています。
「二酸化炭素排出権をブロックチェーン上で取引しよう」といった先端的な活動を法律実務家の観点から提案するなど、法科大学院として新しいテクノロジーの実装を支援しようとする活動に感銘を受けました。
宇田川翔さん
──ブロックチェーンの分野における日本とシリコンバレーの違いは?
こちらに来てわかったこととして、スタンフォードと言えど、この分野を専門とし、深く理解している弁護士はそれほどいないということです。
そして、どの国もブロックチェーンとの関わり方を慎重に見極めている段階で、正しいスタンスを取れる国や個人には、今後大きなチャンスが待っていると感じます。
日本では、すでに包括的な暗号資産規制が敷かれていますが、透明性の高い事業環境を提供するうえでは、一定の法制度と実務の蓄積があることは強みでもあります。
上記のとおり、今後のアプローチの仕方が鍵だと考えていますので、スタンフォードで学んだことを活かし、私も全面的に貢献していきたいと考えています。
一方、アメリカでは今のところ包括的な規制は存在していません。現在、超党派から全体的な規制のフレームワークが提案されているところです。業界からもイノベーションを促進する法制度であると好意的に受け止められていますが、これが私の研究課題の一つです。
起業家やベンチャーキャピタル側も、過度な規制の方向に話が進まないように慎重を期しており、サイバーセキュリティの専門家や法律家とも議論をしながら業界全体が進んでいるように見受けられます。