日本の企業を自立させる。真摯な怒りを原動力に

高橋信也 代表取締役社長兼CEO

高橋は怒っていた。創業したマネジメントソリューションズ(以下MSOL)は、企業にPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)支援サービスを提供する。PMOは、システム開発などの各種プロジェクトを円滑に進めるための司令塔。近年はDXの浸透で需要が拡大し、同社の業績(2021年10月期)も売り上げ73億5900万円(前期比140.8%)、営業利益9億2200万円(前期比456.0%)と絶好調だ。

これほど順調なのに、なぜ怒っているのか。それを理解するには、日本のPMO事情を知る必要がある。

「日本はプロジェクトマネジメント人材が不足しています。アメリカのシステム開発は発注側企業がリソースの7割、ベンダーが3割のバランスで、発注側が全体をマネジメントします。一方、日本企業は発注側が3割で、ベンダーの言いなりです」

高橋は、状況を変えるために17年前にPMO支援のコンサルティングを始めた。支援するうちに企業内で人材が育ち、自立してPMOができるともくろんでのことだった。

「ところが状況はいまも同じ。教育は時間がかかるのに、企業は社内で人を育ててこなかった。わが社の成長は、日本企業が自立していないことの裏返しです。そう考えると、うれしさより先に怒りが立って……」

本心であることは、ソフトウェア事業への挑戦を見ればわかる。同社は企業にコンサルタントを派遣しているが、そのノウハウをツール化して提供すれば、企業はコンサルタントに頼らずに自前でPMOができるようになる。高橋の本命はこちらだ。実はこれまで事業化を3回試みたものの、いずれも時期尚早で撤退。「3億円はドブに捨てた」という。

普通なら見切りをつけて、もうかるコンサル事業にリソースを集中させるだろう。しかし、現在新たなプロジェクトマネジメントソフトウェア「PROEVER(プロエバー)」で4回目の挑戦中だ。これだけ執着するのも、日本企業を「自立」させたいという思いが本物だからである。

経営者には、ビジョンに導かれるように前進するタイプと、不満や怒りを原動力にするタイプがいる。高橋は典型的な後者だ。小学校3、4年生のときにいじめにあった。勘が鋭く、まわりと違ったことを言うので目をつけられやすかった。「たぶん統合失調症のような状態になっていました」。鬱々(うつうつ)とした日々を救ってくれたのは、ロックバンドのX JAPAN。高校時代はYOSHIKIに憧れてドラムをたたき、内に抱えていたものを発散させた。

非合理なことを強いられる組織を嫌い、大学卒業後はアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)へ。そこでWBS(ワーク・ブレイクダウン・ストラクチャー)という手法に出合う。

「引っ越しが好きで、そのたびに、仕事でもないのにWBSをつくって、『このタイミングで業者を手配したらロスがない』などと管理。私生活でも普通に使うくらいにハマりましたね」

これを大企業に導入すれば、ホワイトカラーの現場でも欧米に負けない生産性を実現できる。そう考えてソニーグループの情報システム会社に転職して、PMOを実践した。しかし、社内の目は冷ややかだった。

「大企業の間接部門は、虐げられるんです。担当したプロジェクトは成功して、その後、全社的にPMOができるのですが、私はそれを待たずに嫌になってやめてしまった」
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文=村上 敬 写真=苅部 太郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.099 2022年11月号(2022/9/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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