われわれは誰もが自分の生まれついた感覚知覚・認知特性、育った文化環境という色眼鏡を通して世界を見ている。その繭のなかにいれば楽ですが限界があります。
殻を破るには、違う人々と深く交流するしかない──異文化のなかで暮らし、さらに仮想世界で自閉スペクトラム症の人たちと交流する中で、強く感じたことです。
いま、メタバースが話題ですが、さまざまな感覚を持っている人たちに、どのように最適化されて、その人の神経回路に合った情報の発信・受信ができる世界になるのか。つまり当事者の人々の創造性や情報発信を助けるメディアになるか。
もしそれが今のインターネットのように、次世代のインフラストラクチャーになるとすれば、多数派の真ん中の見方だけに最適化したメタバースにはなってほしくない。いろいろな世界の見方をする人たちが、居心地が良い形で交流できる場をつくる可能性を追求してほしい。いまの日本にとっても、そういう「場」をつくれるかどうかが、とても重要になってくるのではないでしょうか。
池上英子◎ニュー・スクール大学大学院社会学部Walter A .Eberstadt記念講座教授、エール大学准教授などを経て、現在プリンストン高等研究所学際研究プログラム研究員も兼任。主な著書に『名誉と順応 サムライ精神の歴史社会学』『美と礼節の絆 日本における交際文化の政治的起源』『ハイパーワールド』(全てNTT出版)、「自閉症という知性」(NHK出版)、『江戸とアバター 私たちの内なるダイバーシティ』(田中優子と共著、朝日新書)など。軽井沢の森のカフェテラス「ラファエル」にて取材に応じてくれた。