危機から生まれたVR音楽 大所帯バンドの新しいエンタメ表現

バンド オワリズム弁慶の360°VR作品「阿修羅 feat.DOTAMA」から

コロナ禍のショックから少しずつ原状復帰に向かっているライブエンターテイメント業界。しかし、この2年半で歴史あるライブハウスなどの多くの音楽の表現の場が失われ、数えきれないほどのアーティストやバンドがそのキャリアを終了させてしまった現実は、忘れることができない。

解散の危機、メンバーに投げかけた「問い」


状況がひときわ混乱していた2020年当時は、オーケストラや大所帯のバンドなど、人数が多く飛沫対策の取りにくい管楽器隊を擁するグループなどは特に制約が多く、先行きが全く見えなくなってしまっていた。

2009年の結成から東京のライブハウスを中心に活動してきたバンド「オワリズム弁慶」も、コロナ禍でライブが無くなり、40人近いメンバーを抱える大所帯ゆえにスタジオ練習に入ることすらできなくなった。さらには、リーダー格のメンバー二人が活動に参加できなくなる事態に。ロックからダンスビートを持ち味とした迫力あるステージが醍醐味のバンドだが、新作アルバムのために組んだプロモーションも全てキャンセルになった。

今後の活動をどうしていくか、残されたメンバーたちは話し合いを繰り返したが......

「新曲やコロナ禍でもできる活動のアイデアを持ち寄ったりもしたのですが、まとめ役を失った状態では物事が次に進む気配がなく、コロナ禍での制限もありなかなか話は進まず、最悪の雰囲気でした。このまま解散するのだろうと、自分含めみんなが思っていました」

バンドでギタリスト兼美術装飾を担当する小澤ヒデキさんは、バンドの活動が一切白紙になった当時をそう振り返る。10年以上続いてきたバンドの歴史がこのままフェードアウトしてしまうのか。

なんとか再起させたいという思いを持つメンバーたちが行ったのが、バンドの特徴や魅力を客観視してリストアップしていく自己分析。メンバー全員に「このバンドの良さとは?」という質問を投げかけ、回答を集めた。

そこで見えてきたのは、

・大所帯ならではの迫力のあるパフォーマンス
・空間全体を使った演出

といった要素だった。

弁慶オワリズム
コロナ以前の ライブハウスでの演奏の様子

VRこそパフォーマンスの迫力を再現できる


「ライブハウスという空間が“密”になることで生みだされるグルーヴがこのバンドの本質」であると再認識したことで、小澤さんのなかで「VRで表現する」というアイデアがひらめいた。

VRであれば、空間演出の妙を最大限に観客に届けることができ、ミュージックビデオやライブ配信では伝わらないパフォーマンスの迫力をリアルとは違ったかたちで再現できる。
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文=三木邦洋

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