ただ、ミュージックビデオの制作に比べて、VRは技術面はもとより予算と時間の面でも大きな負担が強いられる。元々は映像美術として映像制作に関わり、現在も空間デザイナーとしても活躍する小澤さんは、メンバーへVR企画についてプレゼンテーションし、製作の指揮と監督を買って出た。
「空中分解しかけていたバンドが、VRという新しい試みを目標に持つことで、なんだかよく分らないけど面白そう、やってみようか、というモチベーションでようやく持ち直したんです」(小澤)
そうして、一年半に及ぶ製作がスタートした。クラウドファンディングでは120万円が集まり、サポートしてくれるスポンサー企業も見つかった。
新表現求めるプロのクリエイターが集結
さらに、映像制作には、ファッションブランドのBOTTEGA VENETAとのコラボレーションでも知られるクリエイティブディレクターの奥山太貴や、サンリオピューロランドのVR企画なども手がけるXRクリエイターの三日坊主らという心強い面々の協力が決まった。
資金面、技術面でサポートを申し出た彼らは、必ずしもバンドと旧知の仲であった人々ばかりではない。音楽に限らずあらゆる表現の場がコロナ禍で停滞してしまっているなかで、前向きな挑戦に乗り出したバンドの姿勢が共感を呼び起こした。今回のプロジェクトで初めてバンドと関わった奥山さんは、依頼を受けた心境を次のように語る。
「僕自身、これまで音楽やライブハウスのシーンから刺激を受けてきたり、実際に活動をしている中で、コロナ禍以降の窮状は他人事ではありませんでした。仕事が減り困っていたところで相談をもらったので、正直不安もありました。
構想の段階から現実的にハードルがとても高いことはわかっていたのですが、しかしそれをインディペンデントレベルで実現していくことで、シーンのあり方や表現の可能性を拡張していけるのでは、という強い希望も同時に感じました。
なにより、閉鎖的な雰囲気の中で新しい表現に挑戦していく興奮が、僕を含めてみんなを動かしたんだと思います」(奥山太貴)
撮影の様子
イメージボード
制作は、4曲分の撮影と編集、さらに演奏の録音などを並行して行った。小澤さん含め、みな本業を抱えながらスケジュールの合間を縫って集まり、気の遠くなるような細かな作業をこなしていった。
ライブハウスの3Dスキャン
3DCGのモデリング