谷本:ウェルビーイングの浸透も、同じようなアプローチになりますか。
岩本:そうですね。ウェルビーイングを浸透させる際に、仏教や神道と掛け合わせながら表現していくのは一つの方法ではないかと思います。
谷本:日本から世界への発信において、私たちは細部まで説明する必要があるでしょうか。日本文化の奥ゆかしさを考えると、すべてを言語化しない方がいいようにも考えられます。
岩本:最近、伝統工芸や伝統食の関係者と話す機会があり、改めて、日本が築いてきた文化は世界にも誇れるものだと感じさせられました。唯一足りないものがあるとすれば、マスへの接点だと考えています。
例えば、味噌屋でいえば、ものすごく美味しい味噌ラーメンを作ること。味噌の老舗はこれまで何百年と味を追求してきたのだから、今後はその味を感じられる人々に届けることが大事なはず。そのために、マス向けにラーメンを作り、その裏側にある膨大な苦労が周知された瞬間に、多くの方々が味噌に関心を寄せるのではないかと仮説を立てています。
谷本:ウェルビーイングを日本語にするとしたら、どのような言葉になると思いますか。
岩本:私のなかでは「わび」という言葉が、もう一度注目されるのではないかと考えています。“冷え枯れた境地”という言葉がありますが、冷え枯れた先に残った本質自体を「わび」と表現したりします。
本質はどんな時代においても通用するもので、年をとりません。実際、数百年前に建てられたお寺を今見て「モダンだ」と感じることがあるのも、本質が変わっていないからこそ。私はその「わび」をウェルビーイングと関連付けていて、人間にとって大切な本質さえ変えずに生きていればと考えています。
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現在はウェルビーイングという新しい概念の登場で、市場も大きく変動しています。そんな時代で、私も含めた若い世代は非常に冷静に、一生懸命にチャンスをうかがっています。周りにいる起業家も、熟慮しながら世界を目指しています。
ただ、世界目指すにあたって、日本から出せるアセットがほとんどない現状もあります。ヒト・モノ・カネ・情報という言葉がありますが、ヒトには投資せずに今まで来て、モノは中国で生産し、カネは米中が資本投下をしたら敵わない。情報はビッグテックに握られています。
そんななか、何にすがればいいのかと考えたとき、私はアイデンティティだと思います。調和の精神性をもとに、日本から生み出されてきた文化財やアートに意識的に向き合っていけば、大きな希望があるのではないかと考えています。