茶道、禅、ウェルビーイング 向き合うべき「本質」とは

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岩本:現状、ウェルビーイングが手法のように捉えられてしまっていることに違和感と危機感を抱いています。今の若者は非常に冷静なため、それがビジネスツールに見えてしまうと、反発する動きもあると思います。

私としては、ウェルビーイングを定義する際にどのような価値観に基づいているかが重要であり、その価値観が人それぞれで異なるので、ウェルビーイングに対する考えもさまざまではないかと考えています。

谷本:現在ウェルビーイングが話題に上がりやすいのは、資本主義的な考えのアンチテーゼとしての側面もあるからでしょうか。



岩本:非常に難しい質問ですね。たとえば米国は、加速の時代を生きるためのウェルビーイングを模索しているように感じます。加速を前提に、ほころびが出たところを新しい概念によって補正していく形です。そのため、マインドフルネスや瞑想が流行り、社会が加速していって鬱になれば、瞑想しようという流れが生まれます。

一方、ヨーロッパは加速の時代への反発から、SDGsやESGが盛り上がっています。小さな地元のコミュニティでそれぞれのウェルビーイングを実践しながら、ヨーロッパという大きな枠組みで、世界へ発信しているようなイメージです。

そんななか、アジアは特定のポジションを取れていません。個人的にもまだまだ模索中ですが、公益性がキーワードになるのではないかと考えています。

たとえば、仏教では非常に辛い禅の修行をする流派もあり、修行によって自己と向き合い続けた結果、自己がなくなり、他者や環境との境界もなくなるとされています。つまり、自己との向き合いは他者や社会と向き合うことでもあり、公益性も含まれるということです。

「和を以て貴しとなす」という調和の精神のある日本からウェルビーイングを考えるのであれば、個人ではなく公益という視点が入ってくるかもしれません。

岩本:私は、考え方や思想が競争力になることを証明したいと思っています。スティーブ・ジョブズが禅を学び、アウトプットとしてAppleを起業したことが、その最たる例で、考え方や思想を世界に価値を提供する国が日本。そう捉えると、明るい未来が待っているのではないでしょうか。

谷本:考えや思想で言えば、茶道は日本文化におけるその代表例です。この文化を世界に波及させるために有効なアプローチはありますか。

岩本:現在、世界的に起きているとされる抹茶ブームについて、私は、「うまみ」「健康要素」「色味」「文化的背景」という4つの競合優位性があると分析しています。

ところが、世界のほとんどの国は硬水であり、硬水で抹茶を点てると、苦みが強くなり、香りも消えてしまいます。そうなると、硬水の国々で残るのは「健康要素」と「色味」だけで、実は抹茶である必要はなく、青汁で代替できます。

日本茶の台湾向け輸出が近年伸びている理由もそこにあります。日本から台湾向けに輸出しているのは、煎茶の製造工程で出た粉状の切れ端を集めた「粉茶」と言われるものですが、台湾ではそれが抹茶と見なされています。「粉茶」は、例えばベトナム産の抹茶より安く、ジャパンブランドも通用して利益も多い。まさに、青汁要素の強いお茶と言えます。

ただ、輸出自体が伸びているのはポジティブなことで、輸出先で日本の価値観や思想を広げることができれば付加価値がつくのではないかと考えています。
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