3兄弟の絆を描いたヒューマンな音楽映画「ビー・ジーズ 栄光の軌跡」

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弟たちに先立たれた長兄の傷心


映画「ビー・ジーズ 栄光の軌跡」は、その紆余曲折も多かったグループの誕生から解散までを追ったドキュメンタリーだ。クイーンのフレディ・マーキュリーをモデルにした映画「ボヘミアン・ラプソディ」の成功以来、音楽アーティストを取り上げた伝記作品が次々と製作されているが、「ビー・ジーズ 栄光の軌跡」もその流れでつくられたものと思われる。

「ボヘミアン・ラプソディ」とは異なり、純粋なドキュメンタリーではあるが、ビー・ジーズの足跡自体がまるでドラマのように波瀾万丈であるため、なかなか見どころも多い。作品的にもかなり考えられた構成で、ビー・ジーズのファンならずとも興味深く観ることのできる内容となっている。

冒頭、タイトルバックには、1979年のカリフォルニア州オークランドで行われたコンサートの模様が流れる。曲は「傷心の日々」、当時すでに3兄弟だけのグループになっていたが、「どうしたら傷ついた心を癒せるだろう? 降る雨を止められるだろう? 」と長兄のバリー・ギブが未来の自身を暗示するような歌詞を歌っている。


グループのリーダー的存在でもあった長兄のバリー・ギブ / Liz Patterson

本編の始まりは、2019年のフロリダ州マイアミからだ。ビー・ジーズが再びスターダムに返り咲くきっかけとなった所縁の地であり、現在もこの地に住むバリーが、海を眺めながら次のように述懐する。

「このごろ思う、真実なんてものはない。受け取りかたは人それぞれだ。肉親の死は人生の一部だ。最後に誰かが残される。でも僕にはすばらしい思い出がある」

このバリーの言葉は、3兄弟に訪れた皮肉な運命を指している。弟のロビンとモーリスは双生児で、バリーとは3歳違い。しかし2003年にモーリスが53歳で急逝、2012年にはロビンも癌によって62歳で逝去している(ビー・ジーズとしての活動はこの時点で終了した)。


美しい歌声を持っていたロビン・ギブ / Chris Walter/Photofeatures

実は、3兄弟には10歳ほど年の離れたアンディ・ギブという弟もいて、バリーのプロデュースのもと、アイドルシンガーとして全米ナンバー1ヒットも飛ばしている。しかしそのアンディも、ビー・ジーズへの加入が発表された直後、兄弟のなかではもっとも早く1988年に30歳で亡くなっている。

作品は、その弟たちに先立たれたバリーの回想という形式をとっている。もちろん全編に流れるビー・ジーズの名曲の数々を楽しむこともできるが、時に近親者であるがゆえの諍いや、とはいえ音楽で結びついた堅い絆など、彼らの人生が色濃く反映されており、兄弟をめぐるヒューマンなドラマとしても観ることができる。
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文=稲垣伸寿

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