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2022.11.26

未来を変える可能性に満ちた、京阪神エリアの大学発・イノベーティブな6つの研究シーズ

大学にある研究成果や技術の実用化・事業化が新しい社会的価値を創出することで、社会課題を解決し、社会の持続的発展に寄与する。この理想を現実のものとするべく京阪神圏で実働しているのが、KSACだ。その活動内容に加えて、未来を変える可能性に満ちた研究・技術シーズを取材した。

2021年度の起業活動支援プログラムに採択された26の研究・技術シーズ。そのなかから、特に注目度の高い6つの研究シーズを紹介しよう。



眼球運動のトレーニングが勉強と運動の未来を切り開く《ヘルスケア》



山本倫也/関西学院大学 工学部情報工学課程 教授

山本が篤学の士として情熱の日々を過ごしているのは、「ヒューマンコミュニケーション研究室」だ。特にヒューマンインターフェースの研究に没頭してきた。KSACに採択された研究・技術シーズのテーマは、「ビッグデータ駆動型眼球運動トレーニング社会の実現に向けたコンテンツ・プロトタイプ開発」である。

「人のコミュニケーションにおいて大きな役割を果たしているのが目です。読み書きや球技が苦手な児童は『眼球運動に問題を抱えているケースがあるが、成長が止まる中学生以降でも眼球運動のトレーニングによって問題が改善される』と報告されています」

そうした前提に立つのであれば、問題の兆候を定量的に評価し、兆候のあった者に対して適切な眼球運動トレーニングを施すことで、改善の可能性は高まるはずだ。

「私たちの研究室では、これまで5 年の歳月をかけて眼球運動の評価およびトレーニングのための検査指標の開発に取り組んできました。その成果を論文で発表するとともに、検査者の個人的な経験やスキルに依存せずとも眼球の動きを検査し、トレーニングに応用できるシステムの開発に励んできたのです」

その最新の成果が下の写真の筐きょう体たいに詰まっている。大阪府の小学校で運用しながら、日々のデータをオンラインで分析中だ。 

「将来的には販売・リース・サブスクといった手段で学校や塾、家庭、スポーツ少年団などに届けて、子どもたちに使ってもらいたいと考えています。また、プロスポーツの現場もマーケットとして視野に入れています。事業化に向けてはオープンイノベーションが欠かせない条件になります。さまざまな方々との連携を切望しています」


大阪府和泉市の国府小学校にプロトタイプを設置。画面に現れるドットを目で追いかけることで、楽しみながら眼球運動を鍛えられる。

山本倫也(やまもと・みちや)◎2002年、京都大学大学院エネルギー科学研究科博士後期課程修了。09年に関西学院大学理工学部人間システム工学科准教授、15年に同教授、21年に同工学部情報工学課程教授となる。

工業品や食品の品質管理に加えて究極のオンラインも実現する《ものづくり》



酒井英樹/大阪公立大学大学院 生活科学研究科 教授

「私の専門分野は、居住安全人間工学です。例えば、照明を替えたときに色の見え方がどう変わるか、それによって段差が目立つか・目立たないかといったことを研究しています。製品や建築物、居住空間の安全性、快適性、省資源・省エネルギー性を追求し、物性評価、生理心理評価、環境への負荷の考慮など包括的な視点に立ちながら、諸課題の解決を目指しています」

KSACは、酒井による「複雑形状物の色彩・光沢・再帰反射の同時非接触測色システムの開発」という研究・技術シーズの起業活動を支援している。

「ものづくりの開発現場・生産現場において、色彩の管理は品質管理の一環として重要です。工業製品をつくる際には同じ色で生産しなければなりません。また、食品の工場でも焼き色などの外観検査は品質を一定に保つために重要です」

色を測る=測色は、機械もしくは目視にて行われる。機械の場合は、平らで均一な表面に測色計と呼ばれる機器を接触させて行うのが一般的だ。人間が行う目視は作業者や観察条件などにより、判定に差異が生まれがちである。

「私たちが開発しているシステムは、複雑な形状であっても非接触で物体全体の色を正確に測れるものです。物体のサイズに合わせてシステムの大きさを変えることができ、大きな物から小さな物まで対応可能です。複雑な形状をした物体の正しい色をとらえてデータ化できる私たちの技術は、高精度の測色システムのみならず、画像取得のための撮影システムにも応用できます。すなわち、ECの商品撮影やオンライン診療で顔色を判断する際などにも使えるのです」

工業品や食品を生み出す現場だけでなく、オンラインのサービスにも生かせる技術であり、未来の私たちの生活を変える可能性に満ちている。


測色システムの試作機。拡散性の高い照明光と可動式の光吸収体を組み合わせることにより、自然な外観の撮影・計測を可能にした。

酒井英樹(さかい・ひでき)◎1996年、早稲田大学大学院理工学研究科博士課程修了。早稲田大学理工学部助手、大阪市立大学生活科学部講師、准教授、教授を経て、2022年より大阪公立大学大学院生活科学研究科教授に着任。

高い殺菌効果と安心・安全を両立させた殺菌水で農業を変える《アグリビジネス》



岡 好浩/兵庫県立大学大学院 工学研究科 准教授

岡の専門はプラズマ応用工学だ。独自に開発したキャビテーションプラズマ装置は、液体の流れのなかで圧力差をつけることで泡の発生と消滅が起きるキャビテーション現象によって発生させた微小気泡内に低温プラズマを生成する。

「私たちの装置は、従来の液中プラズマ装置に比べて高速かつ多量に処理が可能です。キャビテーションプラズマに関する基礎データやノウハウが大量にあるため、用途に応じて改良した装置の提案も可能です。難分散性粉体の水分散、金属ナノ粒子の合成、微生物の殺菌、難分解性有害有機物の分解などに応用できます」

KSACが採択した「キャビテーションプラズマ殺菌水による植物病害菌防除技術の開発」は、殺菌に照準を合わせたものだ。

「世界人口が増加していく流れにおいて、農産物の生産性向上と安全性確保は全人類にとって喫緊の課題です。私たちは、キャビテーションプラズマ技術を活用して水のみを原料とした農業用殺菌水を開発しました。GAPファンドでは、『植物病原体に対する殺菌効果の検証』『殺菌効果持続性の検証』『ビジネスモデルの検証』を実施しました」

その成果として、3種類の真菌および2種類の細菌をモデル微生物に選び、全菌種に対して高い殺菌効果があることを確認している。さらには、2カ月以上も効果が持続する作製条件を見いだすことにも成功。将来の顧客と課題を共有しながら、競合技術を調査し、優位性も確認した。

「大規模事業者に対しては殺菌水を生成できる装置および個々の環境に応じたエンジニアリングサービスを提供します。小規模事業者には殺菌水をデリバリー販売します。化学農薬の代替として社会実装し、人と環境にやさしい農業を実現することが目標です」


カイワレ大根の種子にキャビテーションプラズマ殺菌水を噴霧した様子。高い殺菌効果のみならず、発芽促進効果まで確認されている。

岡 好浩(おか・よしひろ)◎2007年、兵庫県立大学大学院工学研究科電気系工学専攻博士後期課程修了。ルネサステクノロジ、ルネサス エレクトロニクス、兵庫県立大学大学院工学研究科の助教を経て現職。

サンゴを高効率で増殖させて地球の温暖化に敢然と立ち向かう《ライフサイエンス》



上田正人/関西大学 化学生命工学部 教授

いま、地球の温暖化を食い止めるためにあらゆる努力がなされている。生物を利用した二酸化炭素の固定法に上田は着目した。

「サンゴは動物ですが、植物と同じように二酸化炭素を吸収し、酸素をつくります。これはサンゴの軟組織、ポリプ内に共生する褐虫藻が光合成を行っているからです。実はサンゴが吸収する二酸化炭素の量は、樹木よりも多いのです」

人類の活動によって排出される二酸化炭素の48%は大気中にとどまり、14%が森林に、残りの38%が海に吸収されているという推計もある。グリーンカーボンよりもブルーカーボンのほうが大きいのである。

「水温上昇など周囲の環境が急激に変化すると、そのストレスによってポリプは骨格から剥離・脱離します。そのストレス忌避反応を人工的に誘発し、単離したポリプをチタン製の基盤に早期固定化すれば、サンゴを高効率で増殖させることが可能になります。一般的な断片移植に比べて親サンゴへのダメージが小さく、サンゴ増殖の起点を大量生産できるのが特長です。また、その骨格は炭酸カルシウムですから、海底に二酸化炭素を長期的に固定化できます」

上記が、上田による研究・技術シーズ「ポリプを起点としたサンゴの高効率増殖による二酸化炭素の固定化」の要諦だ。

起業後は、「ポリプの単離・基盤固定、海洋への設置とその後の管理」といったサンゴ増殖サービスを展開していく。

「起業後のステップとして、まずは環境問題に意識の高い企業のCSR 投資を受けながら技術の確立と認知の拡大を目指します。次に考えているのが、カーボン・プライシングによるクレジット市場への参入です。その先には、サンゴから抽出した物質を利用した創薬も視野に入れています」


チタン製基盤にサンゴ片を固定し、鹿児島県与論島沿岸の海底に設置している様子。上田が自ら潜って作業を行っている。

上田正人(うえだ・まさと)◎関西大学カーボンニュートラルセンター副センター長。2003年、大阪大学大学院工学研究科博士後期課程修了。専門は再生医療、バイオマテリアル。サンゴの高効率増殖にも再生医療技術を生かしている。

原子時計チップの心臓部、小さな英雄“ガスセル”の可能性《ものづくり》



清瀬 俊/京都大学大学院 工学研究科 博士課程

清瀬は高校時代に読んだ『神様のパズル』というサイエンスフィクション小説をきっかけに、ナノやマイクロといった微小な世界に興味をもつようになったという。

「Beyond5G社会では、世界中のエッジデバイスで高精度な時刻同期が必要となります。スマートドローンや自動運転、遠隔手術といった次世代の先端技術を社会に実装するためのキーデバイスとして注目されているのが、原子時計チップです。私は原子時計チップの心臓部となる『アルカリ金属ガス封入セル(ガスセル)』の事業化に向けて、製造技術の確立に挑んできました」

ガスセルは「ガラス/シリコン/ガラス」のサンドイッチ構造になっていて、アルカリ金属ガスと窒素が密閉されたものだ。当然ながら、長期間安定してガスを封じ込めなければならない。それに加えて、できるだけ小さくしなければならない。そして、産業に応用するためには可能な限り、シンプルな工程にて製造されなければならない。

「私たちはラボレベルで高純度のガスを効率的にかつ高い収率で封入することを達成しました。この技術はガスセルの民生品への展開を大きく推進し、Beyond5G社会の基盤形成に寄与します。今後は『ファウンドリの利用を想定した製造技術の確立』『実用化を目指した時刻精度の評価』に取り組み、ガスセルを市場に供給する体制を形成します」

サイエンスフィクションに胸を躍らせた少年時代の熱いスピリットのままで、ガスセルのなかに入るシリコン基板にマイクロメートルオーダー(1,000分の1mm程度)の微細加工を施し、立体構造をつくる。それが「Beyond5G社会を加速する小さな原子時計の量産技術」というシーズの核であり、他者には容易にまねできないところだ。


8×8×2mmというサイズで1円玉にも軽々と載るガスセル。内部のシリコン基板の立体的な微細加工が原子時計の心臓部をつくる肝だ。

清瀬 俊(きよせ・しゅん)◎2019年、京都大学工学部時代に微小電気機械システム(MEMS)分野の門をたたき、研究に身を投じる。現在は、京都大学大学院工学研究科マイクロエンジニアリング専攻博士後期過程に在学。

熱中症の早期検知デバイスに命を救われる日が必ずやってくる《ヘルスケア》



竹井邦晴/大阪公立大学大学院 工学研究科 教授

「熱中症早期検知デバイスのPoC 創出に向けたシステム開発加速とバイタルデータ実計測」という研究・技術シーズがKSACに採択された竹井は、普段どのような研究を行っているのだろうか。

「センサの材料を溶液にしてフィルムに印刷し、簡便なプロセスでセンサを形成。それを人間の身体に貼り付け、ウェアラブルデバイスとしてバイタル(心拍数、呼吸数、皮膚温など)を計測。常時計測が可能となるウェアラブルデバイスにより、『これまでわからなかったことがわかるようになるのでは!』という研究をしています」

「簡便なプロセス」と、いとも簡単かのように竹井はさらりと説明するが、無機半導体ナノ材料の溶液をつくり、印刷プロセスでフィルム状のウェアラブルデバイスを形にすることは容易ではない。

「これからフレキシブルセンサが世界的に普及するためには、キラーアプリの登場が必要だとされています。つまり、柔らかくて体に貼ることのできるフィルム状のセンサならではの使い道を提案する事業者の登場が待たれているのです」

竹井が考えているのは、熱中症の初期症状を検知してアラームを出すアプリだ。

「すでにアンドロイドおよびiOS用のアプリを開発していて、誰でも・どこでも・簡単に計測できる環境を整えることはできました。企業へのヒアリングでは『現場で働く従業員の熱中症を防止したい』という建設業界の強い要望を確認しています。そうした企業にご協力いただいて、今後はPoC(概念実証)を行ってデータを蓄積しながら、サービスの実用化に向けてセンサシステムの完成度を高めていきます」

まずはBtoBのサブスク事業などからスタートして、将来的には用途別に各種のバイタルが計測できるセンサが薬局などで個人向けに売られている世界を想像している。


印刷技術でつくるフレキシブルセンサ。さまざまな用途につくることが可能で、携帯電話との連動によって各種の計測を実現する。

竹井邦晴(たけい・くにはる)◎2009年、豊橋技術科学大学大学院電子情報工学専攻博士課程修了。カリフォルニア大学バークレー校で博士研究員、大阪府立大学(現大阪公立大学)で助教、准教授を経て19年から現職。


京阪神スタートアップアカデミア・コアリション
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Promoted by KSAC | text by Kiyoto Kuniryo | photographs by Shuji Goto | edit by Akio Takashiro

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