審査は「起業家の志、理念の高さ」「ビジネスの革新性、社会的インパクト」「起業家と経営チームの成熟度」「これまでの実績」の4点を軸に、スタートアップ起業家としての総合的なポテンシャルを評価した。
審査員は、Forbes JAPANが毎年行っている「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」で過去に1位に輝いたインキュベイトファンドの村田祐介、ジャフコグループの藤井敦史に加え、昨年、ESG重視型VCであるMPower Partnersを立ち上げたゴールドマン・サックス証券元日本副会長のキャシー松井が務めた。
レーザー核融合商用炉で夢のエネルギーを現実に
松尾一輝 EX-Fusion大阪大学大学院博士後期課程理学研究科物理学専攻修了。在学時は大阪大学レーザー科学研究所で高速点火方式核融合の研究に注力。カリフォルニア大学サンディエゴ校での研究活動を経て21年7月にEX-Fusionを共同創業。
カーボンニュートラルへの社会的な要請が高まるなかで、夢のエネルギーとして期待されているのが核融合発電だ。原理的に暴走しないため安全性が高く、温室効果ガスや高レベル放射性廃棄物を排出しないという特性をもつ。ここ数年で、関連技術の開発に参入する企業が増えている。
松尾一輝が設立したEX-Fusionもこのうちの一社だ。核融合にはいくつかの方式があるが、同社では燃料をレーザーの力で瞬間的に圧縮・加熱して発電するレーザー核融合商用炉に挑んでいる。
レーザーの繰り返し数を変更することで、負荷変動に対応しやすく、ベースロードからピーク電源まで幅広くカバーできることが特徴。EX-Fusionの母体である大阪大学レーザー科学研究所は2020年に従来の10倍以上の高いエネルギー伝達効率を実証するなど成果を上げており、「技術力は世界的にも優れている。光の技術で真に持続可能な社会の基盤をつくり、エネルギー革命を起こしたい」と松尾は話す。
一方で、核融合炉は一機をつくるために4000億円以上がかかるといわれている。そこで、まずは応用幅の広いハイパワーレーザー制御技術の開発に注力。半導体や医療、宇宙開発などで応用技術をパートナーと研究開発しながらマネタイズを行い、核融合炉の開発に近づけていく方針だ。
「夢のエネルギーを夢で終わらせないのが私の仕事。地道に着々と事業を進めて行きたい」