土木・建設のパラダイムシフトを支える3Dデータ解析
宮谷 聡 ローカスブルー東京大学大学院航空宇宙工学専攻修了。東京大学総長賞受賞。仏国のエアバスに勤務後、米国シリコンバレー、イスラエルのスタートアップで経験を積み、2019年10月にスキャン・エックス(現 ローカスブルー)を創業した。
ドローンやレーザースキャナー、スマートフォンなど、技術革新に伴う高品質かつ安価な機材の登場で、簡単に取得できるようになってきた3Dデータ。人手不足が深刻化する土木・建設業界では、これを用いて関係者が現場の情報を共有したり、遠隔地から進捗状況を確認したりと、生産性向上のための活用が注目されている。
一方で、3Dデータを解析するための専用ソフトウェアはいまだ高価で、1ライセンスが100万円を超えるものもあり、業界内の多勢を占める中小企業にとって導入を阻害する要因になっている。
そこで、宮谷聡が立ち上げたローカスブルーでは、月額3万円から利用できる3Dデータ解析プラットフォーム「ScanX」を提供。クラウド上で複数人と情報共有したり、同時に作業したりすることで、ユーザーは従前と比べてデータ解析にかかる作業時間を3分の1以下に削減できる。リリースから約2年で国内外の約1万の現場で使用されている。
国土交通省は2023年までに小規模を除くすべての公共事業で3Dデータを原則活用するよう求めており、土木・建設業者にとって対応は必至だ。「直近1年間でMRR(月次経常収支)は4倍に拡大し、ほとんどが中小企業のお客様。国内のTAM(獲得可能な最大市場規模)は1600億円と見積もっている」と宮谷。21年にScanXは国土交通省のNETIS(新技術情報提供システム)にも登録されており、パラダイムシフトの波に乗る準備は整っている。
「つながる医療」を叶えるデータ処理ソフト
グライムス英美里 Yuimedi京都大学薬学部卒。薬剤師免許取得後、武田薬品工業にて臨床開発に従事。その後、スイスチューリヒ工科大学で医学産業薬学のマスターを取得。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て2020年11月にYuimediを創業
デジタル化の要請が高まっている医療分野。しかし、電子カルテ、レセプトなど日常診療で得られる医療リアルワールドデータ(RWD)は、保管場所の分散、フォーマットの非統一などの理由で、なかなか利活用が進んでいないのが実態だ。
この課題解決に挑んでいるのがYuimediのグライムス英美里だ。同社では、医療データのクレンジング(かたちを整えること)やデータマート(目的に応じて抽出したデータベース)の設計といった前処理を自動化するソフトウエア「Yuicleaner」を開発。
AI技術を搭載したノーコードが特徴で、これまで主に手作業で行われていたデータクレンジング・データマート設計の時間と手間を軽減し、エンジニアや医療従事者でなくても扱える。ヘルスケア関連企業での新薬や新サービスの開発、医療機関・研究機関での研究活動の促進につながる。
同社によれば、医療データ活用の国内市場規模は2027年に8000億円に達する見込み。Yuicleanerは現在、5つの医療プロジェクトでβ版が利用されており、23年に正式版をグローバル同時発売する予定だ。
「世界中のデータ保有者がどのようなデータをもっているかを可視化すれば、保有者と利用者間で必要なデータのみをやり取りする世界を実現できるようになる。安全にデータの保有者と利活用者をつなげることで、データ授受のハードルを下げ、イノベーションの創出に貢献したい」とグライムスはすでに世界を見据えている。
審査員
村田祐介/インキュベイトファンド
エヌ・アイ・エフベンチャーズ(現 大和企業投資)を経て2010年にインキュベイトファンドを設立。2017年の「JAPAN’s MIDAS LIST(日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング)」第1位。
キャシー松井/MPower Partners
ハーバード大学卒、ジョンズ・ホプキンス大学院修了。ゴールドマン・サックス証券元日本副会長および日本株ストラテジスト。2021年5月、ESG重視型のグローバルVCとしてMPower Partnersを設立。
藤井敦史/ジャフコ グループ
2003年にジャフコ グループに入社し、一貫してベンチャー投資業務に従事。2021年の「JAPAN’s MIDAS LIST(日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング)」で第1位を獲得した。